成功の裏にはターニングポイントとも言える時期や出来事があるものです。

 先日、京セラ創業者である稲盛和夫さんの長年の側近として知られる大田嘉仁さんと雑談をしていた際、「あれで稲盛さんは変わったんじゃないかな」というターニングポイントを教えてもらいました。

 それは順調に事業を拡大し、創業から25年を経た1985年。新事業として始めたセラミックスの人工骨、人工股関節を厚生省の許可前に販売してしまった時です。顧客の求めに応じてのことでしたが、薬事法を踏み外したと非難の声にさらされます。世間の指弾を浴びたのは初めてのことで稲盛さんは大きなショックと挫折を味わいます。

 そこで臨済宗の老師に相談に行くと「災難に遭うのは過去につくった業(ごう)が消える時です。業が消えるのですから喜ぶべきです」と諭されます。これが立ち直るための「最高の教え」となったと言います。稲盛さんは逆境も「神が与えたもうた試練」と受け止めるようになったそうです。

 京セラ事業の拡大、電話料金の値下げ、JALの再建など、手掛ける仕事で稲盛さんが重視する利他の精神もこの逆境で強く目覚めたのではないか、と大田さんは指摘します。

 今号の特集は「コロナ再拡大」。世界を新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波が襲い、個人や組織を苦しめています。振り返れば、この苦しみが次の成功のターニングポイントになった──。そんな話がたくさん聞こえてくる未来になってほしいと祈るばかりです。

日経ビジネス2020年12月7日号 7ページより目次

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