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 サントリーの山崎蒸溜所でチーフブレンダーの方に一番おいしい水割りの作り方を教わったので、ご紹介しましょう。もう20年以上も前の話なので、当時かわいがってくれた広報の方に再度確認しました。

 要点はまず、グラスに氷を入れ、ウイスキーを注いで13回転半かき混ぜる。そして水を入れて3回転半かき混ぜる──。氷にウイスキーと水を入れてから適当に混ぜるのとは、明らかに違う味になります。ついでにブレンダーさんに「家では何を飲むんですか」と聞いたら「白角」というのにまた驚き。「『山崎』じゃないんですか」と。

 サントリー創業者の鳥井信治郎さんが「赤玉ポートワイン」で成功した資金を注ぎ込んで山崎蒸溜所のウイスキー作りを始めたのは1923年。ご存じのようにウイスキーは蒸留、貯蔵して5年、10年しないと製品になりません。その間、お金がかかり続けるだけ。待ちに待った最初の原酒は焦げ臭く、明らかな失敗だったそうです。

 何年もたって失敗が判明するのですから、信治郎さんの落胆も大変なものだったでしょう。国産第1号製品「白札」も売れませんでした。資金も底を突きますが、ビール事業や多角化事業を次々と売却、夜は枕元に鉛筆とメモと懐中電灯を置いて製品作りに悩み抜きます。ようやく売れるようになったのは37年に発売した「角瓶」でした。

 今号の特集は「ピンチとチャンス」。真面目に事業に打ち込む人はみんな苦しみもがいています。チャンスの光が見えてきたらおいしい水割りでも飲みましょう。「角」で十分です。

日経ビジネス2020年10月26日号 7ページより目次