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 親しみを感じていた知人や仲間が亡くなると、思い出が浮かんでは消え、ただただ残念で茫然とするばかりです。三井住友銀行の初代頭取だった西川善文さんにもその時が来てしまいました。

 住友銀行とさくら銀行の合併は初めて大財閥の壁を越えた荒業でした。資本増強のために米ゴールドマン・サックスや創価学会に直談判に乗り出したり、三菱東京と統合交渉中のUFJを横取りしようとしたり。その存在感、行動力は傑出していました。住友銀OBと会うと「西川さんは怖かった」という話題で盛り上がります。激高して資料が舞う、灰皿が飛ぶ、と。

 日経新聞電子版で「経営者ブログ」を企画し、日本郵政の社長辞任直後の西川さんに執筆をお願いに行きました。最初は名刺も受け取ってもらえません。3度目の接触で会食にこぎ着けますがそこでも断られ、最後は西川さんが閉めようとするハイヤーのドアに身体を挟み込んで説得。粘る私に呆(あき)れたように一言。「秘書に連絡しておく」。優しく笑った顔が忘れられません。

 以来、幾度も酒を飲み、お茶を飲み。評判と違い、威圧感や近寄り難さは感じませんでした。印象は、誠実なおじさん。なぜ次々に驚く手を繰り出せたのか。それは誠実さが一本気なまでに徹底され、時に執念となったからではないかと思います。銀行や日本のためなら常識に縛られず、手段も選ばない。そして不誠実が許せず激高する。

 今号の特集は「国の借金」。問題に誠実に向き合う人が増えれば、みんなもっと前向きに生きられるようになるはずです。

日経ビジネス2020年9月28日号 7ページより目次