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 米アップルが今年発売するiPhone全機種の表示装置が有機ELになりそうです。少し残念なニュースです。

 30年ほど前、奈良県のシャープの工場でELのパネルを初めて見ました。当時普及が始まった液晶よりも格段に高精細で応答速度が速く、美しさのポテンシャルが液晶よりも上であることがひと目で分かりました。ただ、そのころはオレンジと緑色しか出ないという致命的な欠点がありました。

 しかし、山形大学の研究がカラー化への壁を破りました。ソニーやパナソニック、NECなども開発に乗り出し、世界シェアの約9割を握った液晶とともに日本勢の技術開発が世界をリードしました。パイオニアやTDKがいち早く有機ELの量産に乗り出します。

 しかし、iPhoneの有機ELは韓国サムスン電子製が中心になるでしょう。同社の世界シェアは7割以上。ELに先鞭をつけた日本勢はバブル崩壊後の経営不振の中で合理化を迫られ、まだ養育費が先行するELを「選択と集中」の対象にせざるを得なかったのです。

 「事業領域の拡大」と「選択と集中」は企業が置かれた環境の要請に応じて振り子のように繰り返します。選択肢は多いに越したことはありませんが、環境がそれを許すかどうか。日本勢がELに投資し続ける余地があったかというと、今考えてもなかなか難しい。

 事業の栄枯盛衰のスピードが上がった今、「集中」のリスクが高まっています。時代は振り子を「選択と集中」からその次へと動かしているようにも見えます。今号の特集ではそんな時代に強い企業を考えます。

日経ビジネス2020年7月20日・27日号 9ページより目次