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 「支えるものは何もなかった。下落、下落、下落の一途である。立会場からあがったどよめきの声は恐怖の呻き声へと変わっていった」。1931年に書かれた『オンリー・イエスタデイ』には世界恐慌への引き金になった米株式市場の大暴落の様子が生々しく描かれています。「伝染病のように恐怖が蔓延した」「毎日毎日、新聞は自殺の暗いニュースを報じていた」……。

 筆者のF・L・アレンは繁栄の時代が終わり「旧い秩序は新しい秩序に場所をゆずりつつあった」と見ています。新しい適応と新しい価値体系が求められている、と。その時、時代が変わったのです。コロナの恐怖が蔓延する今のように。

 世界恐慌に突入する市場の異変を事前に察知した人がいました。ケネディ元米大統領の父、ジョセフ・ケネディ。街の靴磨きまでもが株の話を始めたことでバブル相場の終わりを察知し、大暴落前に株を売り抜けたという有名な逸話があります。

 インサイダー取引で巨万の富を築いたジョセフが本当に靴磨きの話で潮目を悟ったのか疑問もありますが、未来を見るヒントは至る所にあり、それを貴重な情報ととらえるか靴磨きのあいさつ程度にとるかは、その人の感度次第だとこの逸話は教えてくれます。目を凝らせば至る所に明日への道標があるものです。

 今号の特集は「不動産」。ここにも新しい秩序が訪れるでしょう。三菱商事社長の垣内威彦さんの「編集長インタビュー」とともに、新しい適応を考えるヒントになれば。

日経ビジネス2020年6月22日号 7ページより目次