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 「あの会社はもう潰れてしまうんじゃないか」。ある会社の本社部門がこんな話で盛り上がっていたそうです。2001年9月14日のこと。経営再建に取り組んでいたダイエーの中間決算が売上高、利益ともに想定を下回ったというニュースが朝刊などで報じられ、出社してきた社員たちがダイエーの危機を無邪気に論評し合っていたのだそうです。

 その輪の中にいた事務を担当する若手従業員がオフィスに入ってきた経営幹部に手招きされて呼ばれます。法律関係の書籍を渡され、コピーを頼まれました。いつものようにさっさとその用を済ませた若手従業員でしたが、数時間後にはその重大な意味に気づいたはずです。コピーしたのは「会社更生法」と「民事再生法」のページでした。

 この従業員が働いていたのはスーパー大手のマイカル。同日午後の取締役会で民事再生法の適用申請を決議し、経営破綻しました。銀行の意をくんだ社長が会社更生法を提案しようとしたため、他の取締役らが社長を解任、経営陣が退任せずに済む民事再生法の道を選んだのです。ダイエーの危機をネタに談笑していた社員たちは午前とは一転、絶望の表情を浮かべたそうです。

 マイカルのつまずきは1990年代前半のバブル崩壊に始まります。マイカルの前年には同様にそごうが破綻、翌年にはダイエーも行き詰まります。急激な景気変動がすぐに企業の息の根を止めるとは限りません。環境変化はじわじわと経営をむしばみます。今号の特集は「再編」。新たな可能性を探るのは早いに越したことはありません。社員を絶望させないために。

日経ビジネス2020年6月15日号 7ページより目次