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 「会社で取引のある銀行と、嫁さんの口座を作る銀行は絶対に同じにしてはいけない。こっそり別の銀行に作っておくものだよ」

 ある大企業の創業者が教えてくれた話です。「万一、会社から銀行への返済が滞った時に生活用の口座まで止められて生きていけなくなる」と。創業者の多くが生きるか死ぬかのリスクを背負った挑戦を続けているのだと改めて実感します。そうした営みが日本の活力を生んでいると考えると、その尊さにサラリーマンの私はただ頭を垂れるばかりです。

 経営の神様と言われるあの松下幸之助さんも創業当初はご苦労をされていました。独立して開発したソケットが当初はさっぱり売れず、困窮の末に家族の着物や指輪を質屋に入れてなんとか生活していたそうです。質屋に度々お世話になっていたことが自身の保管していた通い帳に記されています。

 「いずれのときにも、身を切られるような思いに悩みつつも勇気を鼓舞してやっていく。崩れそうになる自分を自分で叱りつけて必死でがんばる。そうすればそこに知恵、才覚というものが必ず浮かんでくるものです」。松下幸之助オフィシャルサイトには困難に立ち向かう言葉が多数登場します。こうした苦悩の末、水道哲学で日本の発展に貢献されたのはご存じの通りです。

 今号の特集は「スタートアップ」。新型コロナウイルスの影響で大変苦しい状況を迎えています。経済は「お互い様」で回っています。社会に貢献する将来の松下幸之助を育むのは私たちのためでもあります。

日経ビジネス2020年6月1日号 7ページより目次