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 航空業界は典型的な平和産業で、世の中が危機を迎えるたびに経営が傾く会社が出てきました。湾岸戦争、米同時多発テロ、SARS……。リーマン・ショックの後にはJALが破綻しました。今心配なのはANAホールディングス(HD)。仮に新型コロナウイルスとの戦いが現状のまま続けば、数カ月でキャッシュが底を突くという危うい状態です。今号の編集長インタビューでは片野坂真哉社長に登場願いました。

 前回の同社の危機は2003年ごろ。同時テロ、JAL・JAS統合、SARSと立て続けに打撃を受け、乗客ゼロの便が出るほど。当時社長だった大橋洋治さんは「このままでは本当に会社が潰れてしまう」と思ったそうです。今世界には同じ思いで震える経営者が数えきれないほどいることでしょう。大橋さんは社員の結束と一段の奮起を引き出し、危機を乗り越えました。相談役になった今も同社の精神的支柱です。

 そんな大橋さんが先日、HD傘下で航空事業を手掛ける全日本空輸の平子裕志社長の部屋の前を通りかかり、一言だけ声をかけたそうです。

 「平子……。大丈夫だからな」

 平子さんも震える経営者だったでしょう。「たった一言で救われた」と、この出来事を親しい周囲に語っています。

 電子版で特報した通り、ANAには銀行団が1兆円超の融資枠を設定し当面の危機は回避できそうです。ただ、すでに大きい負債はさらに重い負担となり、茨の道は続きます。しかし、幸運にも「生」を得たものの使命として、今は耐えて前を向くしかありません。「大丈夫だから」と信じて。

日経ビジネス2020年4月13日号 7ページより目次