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 日本の民俗学を開いた柳田國男が「日本人の可能性の極限」と評した南方熊楠は奇人変人の域に入るとてもユニークな人です。

 ご存知の方も多いでしょう。一度胃に収まった食べ物を自在に吐き出して気に入らない人を攻撃したり、丸裸で山を歩き回ったり。大英博物館で日本をバカにした英国人館員の鼻に頭突きを食らわし流血させたうえ、謹慎が明けるとまたその館員を殴打したり……。

 ただ、「日本人の極限」とまで言われた大天才です。書物や図鑑は丸暗記。語学は英独仏にとどまらずラテン語なども操り、日本で発見された粘菌の半分は熊楠が見つけたとされます。生物学のみならず天文学や考古学など研究対象は際限なく、学術誌「ネイチャー」には個人で世界最多という約50の論文が掲載されています。昭和天皇の南紀行幸の際には長門艦上で御進講、後に天皇は熊楠を歌に詠まれています。

 なぜそんな成果を上げられたのか。もちろん本人の能力と情熱が尋常ではないのですが、大学などの職に就くことがほとんどなく、山々を歩き回り研究に没頭できたのはスポンサーがいたからです。当時の和歌山では屈指の財力を誇った商人の父と、その後を継いだ弟からの仕送りが研究生活を支えていました。あの熊楠でさえ研究だけで食べていくことは難しかったのです。

 今号の特集は「異端の研究」。世の中をアッと言わせる研究成果は型にはまらない人財による突飛なアイデアから生まれることが多いようです。日本企業はスポンサーとして何人の「熊楠」を抱えているでしょうか。

日経ビジネス2020年3月23日号 9ページより目次