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 なぜこれだけ長い間、会社が公表しないのか不思議ですが、2019年12月に日本航空の元社長である新町敏行さんがお亡くなりになられました。

 「いいかい。『人生、今が最高位』。僕はね、いつもそう思ってる」

 飲むといつもこうおっしゃっていました。人生でいかなるポジションに就こうが、それはその時のその人にとっては最もふさわしい場所なのだと。いかなる境遇となろうとも、不満を持たず、次のポジションなど期待せず、目の前のことにまい進すべきだと──。

 2004年に派閥色がないということを長所として社長に就任。その前から続く運航トラブルと燃油費の高騰で業績が悪化すると、派閥争いに端を発するクーデターを起こされ2年後に退任を余儀なくされます。年に数回、新町さんのご自宅がある鎌倉で飲むようになったのはその後、数年たってから。

 線路沿いのいつもの居酒屋の小上がり席で、ワカメサラダとアジフライに芋焼酎。退職金を返上しているので1人3000円ほどを割り勘で。クーデター当時ははらわたが煮えくりかえっていたことでしょうが、酔って水を向けるといつも笑い飛ばしていました。重役時代にはここには書けない裏の仕事も随分任され会社をひそかに救ってもいましたが、そんな恨み節も一切口にせず。苦悩の末に行き着いた境地が「人生、今が最高位」だったのでしょう。

 今号の特集は「終身雇用」。日本型経営の根幹を成した制度も見直しを迫られています。きっと苦悩する方々も出てくるでしょう。働く方すべてに新町さんの言葉を贈ります。

日経ビジネス2020年3月16日号 9ページより目次