全635文字

 背伸びをせず着実な成長を目指す「年輪経営」。トヨタ自動車もお手本とするこの経営哲学を提唱する伊那食品工業の塚越寛・最高顧問から春のお便りが届きました。

 「『成長』『売上』『利益』──みんな手段ですね。目的は『幸』や『平和』や『夢』の実現ですね。」

 温かみのある文字で書かれたメッセージを見て30年ほど前に聞いた知人の話を思い出し、久しぶりに飲みに誘いました。ゲーム機大手セガの名物広報だった清水敬博さん。自ら立ち上げた市場調査の会社をたたみ、セガに入社したのですが、年収が3分の1になってしまったという話でした。その選択を73歳になってどう振り返るのか。

 「かつての市場調査業は電話帳では自由業の扱い。サラリーマンじゃないと子供がいじめられる、と妻に泣きつかれた」というのが転職の理由。セガの年収は350万円ほど。「食べられないわけじゃない。とにかく子供のために60歳までサラリーマンを続けることだけ考えた」と言います。お金も出世も関係なし。「正しいと思うことを思い切りやるだけ」。上司とぶつかり、消費者金融の武富士への転職を促されたこともありましたが、「サラリーマンは楽しく幸せだった」と満足そうでした。

 政府の調査では転職した人の多くは仕事内容や賃金など条件面の不満を理由に退職しますが、実際に転職して満足している人は50%強にすぎません。清水さんとの違いは何でしょう。

 特集は「あなたを鍛える会社」。何のために鍛えるのか。人生でも「手段と目的」の整理は大切です。

日経ビジネス2020年2月10日号 9ページより目次