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 「ニコヨンって知ってはりますか?大阪に出てきて職がなくて地下鉄の穴を掘ってたんですわ」

 今号のケーススタディーに登場する産業ガス大手エア・ウォーターで32年にわたり経営の実権を握った青木弘さんは苦労人でした。「ハングリー」が背広を着ているようなイメージ。ニコヨンとは戦後の混乱期に職安で斡旋された日雇い労働者のこと。日給が240円。100円2つと10円4つの意味です。食べるにも難儀する額だったと言っていました。

 その後「板張りの床が傾いたようなオンボロ本社」の大同酸素(現エア・ウォーター)に入り、社長に上り詰めると飢餓感を埋めるようにM&Aによる拡大戦略に走ります。財テクに失敗し経営危機にあったタテホ化学工業などいわくつきの会社までも飲み込み、1998年には国内最大手の日本酸素(現大陽日酸)と提携します。この時も実は幹部同士で合併の密約がありました。青木さんは日雇い労働者から産業ガス国内トップの座に手をかけたのです。

 しかし、日本酸素は約束を反故にします。「大が小に飲み込まれる」と悟ったからです。交渉を進めるうちに見えてきたエア・ウォーターの野武士振りがそれほどすごかったのです。

 今号の特集は「パナソニック」。長らく経営改革に苦闘しています。青木さんとは違い立派な本社に入社した人たちばかりでしょうが、従業員1人当たりの営業利益はエア・ウォーターの3分の1程度。社員はよりハングリーであるべきところですが、果たしてどうなっているでしょう。

日経ビジネス2020年1月27日号 7ページより目次