全647文字

 これまでの商売の手法を変えるイノベーターは既存事業者から恐れられ、疎まれる──。こう言うと、ネット販売で世界の小売りを揺るがす米アマゾンを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし歴史をひもとけば日本にも小売りのイノベーターは存在します。

 三井高利。後に三越となる「三井越後屋呉服店」を開業、三井グループの礎を築いた方です。伊勢松坂から江戸に進出し、それまでの商習慣を打ち破って大成功。同業者からの反発は強かったようで、店先にふん尿をまかれるような嫌がらせも受け、呉服街だった本町から引っ越したほど。行き先となったのが今の日本橋本店のあたりです。

 日本史の教科書にも出てくる高利の新商法。正札販売という定価での販売手法は世界初といわれています。単純に定価にしただけではありません。客先に出向いていた売り方を店頭売りに、年に2回のツケ払いを現金払いにして、浮いたコストで安い定価を実現する──今では当たり前の「価格破壊のシステム」の導入だったわけです。ただ、その当たり前も刻一刻と値段が変わるダイナミックプライシングなどでまた変化の時を迎えています。

 今号の特集は米国の小売り最前線。直近の変化を主導するアマゾンに対し、攻め込まれる旧勢力の代表だった米ウォルマートが競争力を取り戻しています。「すでに終わった巨人」とさえ見られていた同社の挑戦をリポートします。ちなみに高利が江戸に進出したのは50歳を過ぎてから。銀行の礎となる両替商を始めたのは60歳過ぎ。挑戦に「遅すぎる」ことはなさそうです。

日経ビジネス2020年1月20日号 7ページより目次