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 「取材は受けられない。これから首をくくるから」

 1990年代半ば。バブル経済の崩壊と超円高で日本の製造業は悲鳴をあげていました。家電メーカーの下請けとなっている部品メーカーの状況を取材しようと長野県の伊那谷に行き、駅前の公衆電話の電話帳にある電子部品メーカーに片っ端から電話をかけて取材のお願いをしている時でした。ある会社の社長が自殺予告をしたのです。

 その後少し話をして落ち着いたのか「大丈夫。頑張る」と言ってくれました。もともと本気だったのかどうかも分かりませんが「このままではいずれそうなる」とため息をついていました。

 その当時、似たような状況に追い詰められた人は多かったと思われます。98年には自殺者数が前年より3割強も増え、景気悪化が原因とされました。苦しい時は大手メーカーも同じ。雇用削減を伴うリストラの嵐で職を失った方が多くいました。

 ただ、景況が良くなってきてからは、大企業と中小企業の間にはひとつの溝ができてきました。利益率の溝です。共に苦しんだ90年代の大企業と小規模企業の平均経常利益率の差は1ポイント台でしたが、2000年代からは3ポイント以上に広がり、10年代も拡大傾向にあります。大企業が搾取しているとは言いませんが、景気回復の恩恵は大企業に厚くなっています。本格化する「大廃業時代」の要因のひとつはここにあります。

 今号の特集は日本を支える「中小企業」。その活性化には大企業も知恵を絞るべきでしょう。

日経ビジネス2019年11月25日号 9ページより目次