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 なお続く香港住民と当局との対立は遡れば19世紀半ばのアヘン戦争に行き着きます。戦後の賠償で香港島の英国への割譲が決まったのはご存じの通り。列強諸国に付け入る隙を与えた清はその後、アロー号事件や日清戦争などで攻め込まれていきます。中国史に大きな意味を持つアヘン戦争ですが、当時の清ではあまり大変なこととは思われていなかったのだそうです。

 首都の北京から遠く離れた南方沿海部の出来事への関心が薄かったとも言われていますが、巨大な帝国だったために自国を過大評価した「中華思想」が根強かったことが理由の一つに挙げられます。アヘン戦争の50年ほど前。自由貿易を求め英国から初めて派遣された使節は、ひざまずいて清の皇帝の手に接吻したというのですから、過大評価していたとしても不思議ではありません。貿易は英国からの朝貢の形がとられていました。

 しかし、その油断は20世紀の間も欧米や日本に攻められ、大きく後れを取る原因となりました。中国共産党の幹部にはきっと「臥薪嘗胆」の思いがあるはずです。ゴツゴツとした薪の上で寝て、あるいは苦い肝をなめて復讐の思いを忘れないようにするという春秋時代の呉と越の王の教訓です。

 今号の特集は「チャイノベーション」。中華思想が傷ついた悔しさが技術革新の原動力とすれば、再び列強をひざまずかせるまでその力が衰えることはないのかもしれません。翻って、多くの分野で中国に追い越されようとしている日本は今、どのような気持ちで何を目指すのでしょう。

日経ビジネス2019年11月4日号 7ページより目次