ある大学の教授がため息をついていました。「期待して入学してくれた学生に申し訳ない」

 その大学では、文系や理系の学部別に縦割りとなっていた組織を連携させ、技術を使った経営や起業を教えるための改革に乗り出しました。教授は他大学から招へいされ、鳴り物入りで改革担当に就きました。しかし、改革の旗を振ったトップが派閥争いの末に退任し、改革は尻すぼみに。結局はその教授も大学を離れてしまいました。

 大学を巡るこの手の話は珍しくありません。経済界から人財を招いても箔づけのお飾りにして権限を持たせないといった例も耳にします。内向きな労力の消費は学生のためにも、日本のためにもなりません。もう少し外向きに視野を広げてはどうでしょう。世の中は技術革新もあって急速に動いています。

 私が気になるのは、現在の学校制度の多くが教員の数や建物といった物理的な要因に規定され過ぎているのではないかということ。いつでもどこででも授業を受け質問できるようにすれば定員の概念は不要で、授業が理解できたかどうかだけを問うのであれば、入試の意味もなくなるかもしれません。出席するだけで単位がもらえるなんて無意味なこともなく、マクロ経済学のあのお決まりの授業のために各大学が教授を抱えておく必要もないでしょう。

 色々と考えられることはあります。確かに障害や制約もあります。労力はそうした壁を越えるために使うべきものでしょう。今号の特集は企業の競争力にもつながる「教育」。あるべき姿を考える契機となれば。

日経ビジネス2019年10月28日号 11ページより目次
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