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 「これはどうやって記事にするかなあ」──。以前、こううなってしまうネタがありました。ある有名企業。取締役たちが話し合って、長年トップを務めたワンマン経営者を退任させようとしている話でした。いわゆるクーデターです。そもそもクーデターを事前に記事にするのはいくつかの理由があって難しいものですが、この件には他とは違う事情がありました。

 そのワンマン経営者は日経新聞の「私の履歴書」にも登場するほどの名経営者。社内にも信奉者が多かったのですが、認知症の疑いがあったのです。合理性のない商談を他の取締役が知らない間にまとめてくるといった実害が出ていました。取締役らは「あなたはボケています」と本人と話し合うことができず、記事にもそう書くわけにいきません。

 別のカリスマ経営者でも、退任後に何年もたってから大手町にある本社の役員フロアに突然現れ「私を経営トップに戻せ」と暴れた方もいます。もはや珍しいことではないかもしれません。

 物忘れがひどくなる、理解力が低下する、同じ話を繰り返す、頑固になる、思い込みが激しくなる……。年をとってくると体力だけでなく頭の力もなんらかの形で衰えてきます。実感されている方も多いでしょう。今号の特集は「判断力低下社会」。高齢化する日本は総体として認知・判断の力が低下していきます。本編にあるようにその社会的コストは膨大なものです。私たちはどう向き合うかを考えておく必要があります。若い世代の手をわずらわせないために。

日経ビジネス2019年9月23日号 9ページより目次