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 「社長と呼ばれる人の半分はサイコパスじゃないかと思う」。経営者との付き合いが多い三菱グループのある大手企業のトップが自らもその傾向があるかもと笑っていました。サイコパスは大げさとしても、成功する経営者には、こうと決めたらまっしぐらに突き進む人が多いのは間違いありません。

 2023年に日本一の高さのビルを建てるという森ビル。今は亡き創業者の森泰吉郎さんもそんなタイプかもしれません。世界の長者番付にも名を刻んだ泰吉郎さんですが、もともとは大地主ではありません。関東大震災を機に実家がお米屋をやめると、学生や大学教授をしながら東京・虎ノ門周辺の土地を少しずつ買い集めます。念願だった最初のビルの敷地は30坪でした。

 いくつか建てると借金が嫌いな父親が「もういい加減にしておけ」と言いますが、小さな成功には安住しません。その後も開発の手を緩めず、霞が関ビルに刺激を受けたアークヒルズや六本木ヒルズなど大規模開発にも乗り出します。新しく日本一となるビルの敷地は1万9330坪にもなります。

 泰吉郎さんは恩師から「利潤追求よりも大事なのは社会に役に立って喜んでもらうこと」と聞かされ迷いが消えたといいます。実は若い頃は家賃収入という不労所得は社会悪ではないかと悩んでいたのです。泰吉郎さんが突き進んだのはビル建設そのものではなく、社会貢献だったのかもしれません。

 今号の特集は「不動産」。都心ではいたるところでビル開発の現場が見られます。それぞれはどこに向かって突き進んでいることでしょう。

日経ビジネス2019年9月2日号 7ページより目次