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 「日本車の不買運動? 私も自宅にとめてあったアコードの窓をたたき割られましたよ」。少し前の中国や最近の韓国での話ではありません。1980年代。ホンダにいた知人が米国法人に勤務していたころのお話。自動車を巡る日米貿易摩擦が火を噴いていたころです。日本車で最も早く米国生産を始めていたアコードさえも反発の標的でした。

 82年には無残な事件が起こりました。デトロイトでクライスラーに勤めていた米国人が、業績低迷は日本車のせいだとして酒場で口論になった相手をバットで殴り殺してしまうのです。被害者は日本人に間違われた中国系米国人でした。保護観察3年と罰金という軽い刑が決まると人種偏見を争う公民権侵害裁判に発展しますが、陪審の評決は無罪。米国は日本車憎しの感情を抑えられませんでした。

 大航海時代に始まる植民地支配を前提とした経済システムは第2次世界大戦をきっかけとして終わり、米欧列強は「自由貿易」を標榜しますが、それは先進国の国益にかなうものだったからでしょう。国益に障るとなるや、感情に突き動かされ、理念をワキに置き、キバをむきます。

 特集テーマは「アメリカ」。国益を奪い合う時代に日本はどうあるべきでしょうか。日経ビジネスではこれから「目覚めるニッポン」をテーマに記事を随時掲載します。今号と次号では経済界の2人の論客に対談していただき、目指すべき方向を企業の目線から語ってもらいます。読者の皆様の声も反映したいと思います。ご意見をお寄せいただければ幸いです。

日経ビジネス2019年7月29日号 7ページより目次