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 離れていた故郷に戻るのがいつも幸せなことだとは限りません。

 180年前にアヘンの密輸を取り締まったことに難癖をつけられて始まった戦争に敗れ、賠償のために英国に差し出された香港。当時、周辺では外国人排斥運動で死者も出たほどだというので、清の住民の反発も強かったのでしょう。今は逆。1997年7月1日に中国に返還されましたが、22年を経ても「故郷」で自由を制限されることへの反発は消えません。

 香港当局は今回、拙速な中国本土への同化を見合わせたようですが、現体制が続けば時間の問題です。目の前で自由を求める人々から自由が奪われるさまを見るのは残酷なショーを見せられているようで耐えられませんが、中国は甘くはありません。

 この22年間で世界に一気に普及したインターネットは当初、ヒトとヒトを直接つなぎ個人の力を解放する人類の光だと考えられていました。確かにそれまでは不可能だと思われたことも可能にする手品を私達はいくつも見てきました。中東では一時的にせよ独裁政権を倒すアラブの春も演出しました。しかし、強い光は暗い影を呼びます。

 かつて英国に弄ばれた中国は米国をも凌駕しかねないインターネット・デジタル大国となり、その技術革新によって人々の自由をも自在に管理できる体制を築きつつあります。歴史上不可能だった独裁政権の永続を可能にするために。

 今号の特集は「BAT」。中国が誇る最強のデジタル企業たちです。私達はどう向き合うべきでしょう。

(東 昌樹)

日経ビジネス2019年7月1日号 9ページより目次