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 「なぜ日本企業ではイノベーションが起こりにくいのでしょうか」

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院教授で日本通のマイケル・クスマノさんに尋ねると、カレーライスを頬張りながら即答されました。

 「失敗を恐れるからですよ」

 現状のままでは立ちいかなくなると分かっていても、変わることに本気になれず、イノベーションで起こした新規事業は社内からむしろ邪魔をされる。上から下まで保身のためリスクを取りたがらない。「そうでしょ?」と。

 そんな日本企業でも新たな事業の創出に目の色を変えた時代があります。1980~90年代。急激な円高進行とバブル崩壊で余剰となった国内人員の受け皿が必要だったのです。日立造船はとりわけ目を引きました。祖業の造船を切り離すなど厳しいリストラに挑む一方で、健康飲料とされた杜仲茶がヒット。当時は先進的だった宿泊予約サイト「旅の窓口」も同社が手掛けました。

 ただ、どちらも日立造船にはもう残っていません。このため、とっぴな新規事業は本業に貢献しない代表例として語られることが多い。ですが、杜仲茶事業は小林製薬が買収し今も健在。旅の窓口は楽天トラベルとなります。楽天への売却額323億円は日立造船の経営を支えました。そのほとんどが失敗に終わるイノベーション。日立造船の挑戦はむしろ称賛に値するのではないでしょうか。

 今号の特集は「新規事業」。困難な挑戦だけに、マイナスを恐れず、プラスの面にも目を向ける複眼が必要です。

(東 昌樹)

日経ビジネス2019年6月24日号 7ページより目次