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 亡き父の教えを実践しているのかもしれません。

 2006年、アルミサッシ最大手のトステム(現在はLIXILのグループに)で社長解任劇が起こりました。専務から昇格した社長がわずか1年で辞めさせられたのです。どこかで聞いたような話です。解任を決めたのはトステムの創業者である潮田健次郎さん。今、自ら招いた社長を次々解任して話題になっているLIXILグループの潮田洋一郎会長の父親です。

  健次郎さんは小学校までしか卒業できませんでしたが、一代で1兆円企業を築き上げた立派な経営者。全身全霊で経営に打ち込みました。若返りのために専務を社長に据えたのですが、業績不振で希望退職を募っている最中にもかかわらずファーストクラスで国内外の接待ゴルフに励むその社長に失望したようです。

 わずか1年で社長を代えてよいか悩んだようです。最後は米ゼネラル・モーターズ(GM)を巨大企業に育てたアルフレッド・スローンが「人事を誤ったらすぐ改めろ」と書き記してあるのを思い出し決断します。今号の特集は「正しい社長の辞めさせ方」。洋一郎会長も悩んだはずです。

 健次郎さんは自著の中で生涯の糧にした教えをこのほかに4つ紹介しています。要約すると「自分が楽をして人を働かせない」「破廉恥なことをしない」「誰からでも謙虚に吸収する」「人と同じことをしない」──。洋一郎会長がこれらも実践できていれば、現在のような事態にはなっていないように思うのですが。

(東 昌樹)

日経ビジネス2019年6月17日号 9ページより目次