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 経常利益が4期連続で過去最高。なのに就任から2年2カ月の任期途中で辞任を余儀なくされた社長がいらっしゃいました。日清食品の安藤宏寿さん。即席ラーメンやカップ麺を発明した創業者、安藤百福さんの長男です。1983年8月15日。わずか2カ月前の株主総会後の取締役会で社長続投を確認したばかり。父である百福さんに辞表を手渡し、会長だった百福さんが社長に復帰することになりました。

 「(宏寿さんは)社業全般についての取り組みが甘く、社内外での評判も芳しくない。創業者である私が手綱を引き締め直すことにした」。翌日の記者会見で百福さんは社長交代の理由をこう説明しました。「自分の会社に対する愛着と責任感は誰よりも強く、いかに自分の息子でも、これ以上日清食品に対する社員や株主の信頼を裏切るわけにはいかない」

 百福さんはドライだったのか。むしろ逆です。「自分の息子に事業を継がせたいと思うのは人情。私が補佐すればいいと考えて社長に昇格させた」と語っています。交代の心境を「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」と表現しました。取り組みの甘さを何度も注意し、宏寿さんは1年ほど前から辞意を漏らしていたというので、未練があったのは百福さんの方だったかもしれません。

 今号の特集テーマである「同族経営」には非同族にはない厳しさがあります。百福さんは次男の宏基さんにバトンを渡しました。宏基さんは長男の徳隆さんに渡すでしょう。厳しさを知るだけにリレーが乱れることはもうないはずです。

(東 昌樹)

日経ビジネス2019年6月10日号 11ページより目次