
アカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミス氏が、プレゼンターのクリス・ロック氏がスピーチの中でスミス夫人の脱毛症をからかったことに激高し、舞台に登って彼の顔をハタいた。私は、その場面をナマ(中継だが)で見ていた。
それまでの2週間ほど、ひたすらにウクライナでの戦争のニュースばかり見せられていたせいなのか、私は、暴力的なシーンではあっても、「ハリウッドの俳優さんともなると、常にカメラの位置を意識しているのだなあ」などと感じていた。それほど、スミス氏のフォームはきれいだった。
ついでに申せば、彼は、握った拳ではなく、平手でハタいている。つまり、スミス氏は「なぐって見せて」いたわけで、本気でロック氏にダメージを与えようとしていたのではない。「見栄え」から逆算して自分の行動をコントロールしているあたりは、やはり一流の俳優さんなのだろう。もちろん、公衆の面前での、著名人の暴力は擁護できない。21世紀の文明国の人間として、許されないことだ。後にスミス氏も「未熟でした」と全面的な謝罪を行っている。
しかし、私がつくづく感じていたのは、暴力への怒りや驚きよりも、私たちの社会がこの何十年かの間に歩んできた道のりのはるかさだった。
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この記事はシリーズ「小田嶋隆の「pie in the sky」~ 絵に描いた餅べーション」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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