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(イラスト=小田嶋 隆)

 3月にはいってからというもの、新型コロナウイルスへの対応のために混乱していない場所は、日本中どこにもない。人の集まる場所を運営する人間は、突然のキャンセルや、スケジュールの練り直しや、問い合わせへの対応に追われ、集客と売り上げの減少に苦しんでいる。直接に顧客や観客に対峙する商売をしていなくても、ほとんどすべての日本人は、現在、新型コロナウイルスがもたらす肺炎の恐怖や、疫学的なリスクよりも、むしろ全国民的な所得と消費の冷え込みを踏まえた、経済恐慌の予感におびえている。

 そんな不安が蔓延する中、よりにもよって日本の経済の命運を握る重要なコンダクターである財務大臣のとんでもない暴言が伝えられた。麻生太郎財務相兼副総理が、10日の参議院の財政金融委員会で述べた、以下の言葉だ。

 「武漢発のウイルスの話で、新型とかついているが、『武漢ウイルス』というのが正確な名前だと思う」

 ちなみに申し上げれば、ウイルスの名称については、国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって「SARS-CoV-2」と決定されている(「COVID-19」は世界保健機関=WHO=が命名した、このウイルスが起こす病気の症状名)。

 国際機関は、特定の国名や地域名を冠した言い方を強くいましめている。現状、話題の新型ウイルスが武漢ないし中国発である根拠はない。そもそも、ウイルスの最初の発生地を特定することは、極めて困難な作業であろう。

 最近、中国大使館のリリースが誤読され「中国がこのウイルスに日本と関連した名を付けようとしている」という噂が広がったことがあり、あるいはこれに反応したのだろうか。だとしたらさらに情けない。そこいらへんのスナックのとまり木にぶら下がっているオヤジが言ったのならともかく、政府の閣僚が国会で公言する言葉としては、あまりにも非常識だと申し上げねばならない。