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(イラスト=小田嶋 隆)

 田代まさし容疑者が覚醒剤所持の疑いで逮捕された……と、冒頭の1行目を書いてしまってから気づいたのだが、田代まさし氏の名前の末尾に付加した「容疑者」という呼称は、「逮捕」された事実を受けたものだ。ということは、この1行目を書いた人間は、田代まさし氏がすでに逮捕されていることを、テキストを書き始める前からすでに知っていたことになる。どうでもいいことのようだが、これはわりと重要なポイントだ。というのも、ニュース原稿を書く人間が、記事中に登場する人物の肩書なり呼称を、前例踏襲でオートマチックに処理している事実は、われわれの社会全体が、容疑者個々人の扱い方そのものを、機械的かつ一方的に決めつけている可能性を示唆しているからだ。

 実際、NHKは、今回の田代容疑者の逮捕を受けて、Eテレの情報バラエティー番組「バリバラ」の公式サイトの中の「これまでの放送」一覧から同容疑者出演回の内容を抹消している。

 「バリバラ」は、基本的には丁寧に作られた良心的な番組だ。間違っても薬物依存に陥った人間を社会から排除する旨を主張する番組ではない。むしろ、依存症から立ち直ろうとしている人々を包摂し、彼らの社会復帰をサポートしているわが国のテレビメディアの中では唯一無二と言っても良い、依存症フレンドリーなコンテンツだ。だからこそ、その「バリバラ」が、数あるテレビ番組の先頭を切って、田代まさし氏関連の録画映像を抹消しにかかったことの意味もまた小さくない。