米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が、減税を柱とする経済政策をようやく発表した。減税による歳入減は規制緩和による経済成長や貿易政策により取り返せると主張する。だが、その政策は過去に失敗しており、効果がないだけでなく、さらなる金融危機が発生するリスクを招くだろう。

サイモン・ジョンソン氏
英オックスフォード大学卒業。米マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済博士号取得。IMFのチーフエコノミストを2007~08年に務める。金融危機以降、抜本的な金融制度改革の必要性を訴え続けてきた。現在はMIT教授。

 米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ氏がこのほど、ようやく自分の掲げる経済政策の詳細を公表した。執筆したのはトランプ氏の政策顧問を務める米カリフォルニア大学アーバイン校の経済学者ピーター・ナバロ氏と、投資家として知られるウィルバー・ロス氏だ。

*=投資銀行ロスチャイルドで投資家として24年の経験を積み、2000年に自らのファンドも設立。数々の企業再建を手掛け「再建王」とも呼ばれる

 両氏は、トランプ氏が大統領になれば米国経済を大きく成長させ、米連邦政府が抱える公的債務を削減できると主張している。

10年で260兆円の歳入減

 しかし、その経済政策が前提にしている条件はあまりに非現実的で、まるで両氏がほかの星からやって来たのではないかと思えるほどだ。仮に米国がこれらの政策を実施したならば、米国は即座に、紛れもない大惨事に見舞われることになるだろう。

トランプ氏は減税と規制緩和で米国は経済成長すると主張するが、それは米政権が過去に何度も失敗してきた政策だ(写真=AP/アフロ)

 トランプ氏の経済政策の柱は大規模な減税だ。ナバロ氏とロス氏は、これが経済成長を後押しすると主張している。これまでも、そうした大規模な減税策が効果を上げることはなかった、にもかかわらずだ。

 例えば2001年1月20日~2009年1月20日のジョージ・W・ブッシュ政権下で進められた減税策も効果は上がらなかった。その事実に関する確固たる証拠は山のようにあるが、両氏はその全てを無視している。

 ナバロ氏とロス氏は、トランプ氏が15日に発表した経済政策に根拠があることを示すために、9月29日付で報告書を公表。その中で、減税計画自体に10年間で歳入を少なくとも2兆6000億ドル(約260兆円)減らすマイナス面があることを認めている。

 この報告書は、トランプ氏による政策発表後の9月19日、米国の中立的な政策研究機関「税金財団」が、同氏の減税政策がいかなる税収減をもたらすかをあぶり出し、公表したのを受けて発表したものだった。そこでナバロ氏とロス氏は、税金財団が試算したこの不利な数字をあえて取り上げた。

 ところが両氏は、規制緩和を進めれば、それにより奇跡のような経済成長がもたらされるので、減税による歳入減は十分に取り戻せると主張する。