こうした投資によって経済の資金が吸い取られる、あるいは炭素税導入により「炭素資産」の価値が下がる逆資産効果を招くというマイナスの効果は生じるが、炭素税導入に伴う大規模投資が生む効果の方が必ず上回る。
逆資産効果の影響はごく限られたものにとどまる一方で、資本ストックが炭素税導入によってもたらされる新たな価格体系とうまく調和しないため、そのギャップを埋めるべく莫大な資金が投入されることになるだろう。どこかにボトルネックが生じない限り、その投資額は巨大になるはずだ。
炭素税導入で増加した税収は、公的債務の圧縮に使うこともできるし、技術や教育への投資資金に充てることも可能だ。例えば供給サイドへの投資として、日本のサービス分野の生産性を向上させるための対策に投じるのも一案だ。
このような支出は同時に経済を刺激する効果も発揮するので、日本はついにデフレからの脱却を果たせるかもしれない。
永久債で公的債務を置き換え
海外では、日本の公的債務の大きさを不安視する論調が強い。今日の世界的な低金利の環境では債務の持続は容易だが、ひとたび金利が正常な水準へと近づけば日本が財政を維持していくことは難しくなる、というわけだ。
私自身は、金利が近く上昇に転じることはないと考えている。だが、日本がそうした懸念を払拭したければ、取れる政策が2つある。
第1は、国債の一部を永久債に転換することだ。永久債とは、償還の必要がなく、毎年(少額の)金利だけを支払う債券のことだ。これで日本政府は莫大な公的債務を抱えるリスクを政府の貸借対照表上から完全に消し去ることができる。
この手法はインフレを招く、との懸念もあるだろう。だが、日本経済では、逆にインフレこそがまさに必要とされていることだ。
日本が債務を永久債に置き換えるようなことをすれば、急激な金利上昇を招くとの懸念もあるが、あまりに大げさに吹聴されすぎている。念のため十分に慎重を期して、インフレ圧力が高まりすぎない限りは毎年、例えば債務の5%ずつを永久債に転換していくという手法も考えられる。
財政ファイナンスも選択肢だ
あるいは、今抱えている債務を金利ゼロの国債に置き換えるという手法もある。つまり、禁じ手とされてきた「国家債務のマネタイゼーション」だ。
こうした財政ファイナンスは、金利が付く永久債化よりもインフレを招きやすい要因となる可能性が高い。だからといって、マネタイゼーションを否定する論拠にはならない。よりゆっくりとしたペースで進める必要がある、というだけのことだ。
日本が金利の急上昇を避けるために取れる第2の方法は、日本政府の債務の大部分は自身からの借り入れであるという認識を出発点とする。
米ウォール街では、問題は純債務──政府が外部の社会に対して負っている債務──であることを理解していない者が多いようだ。
仮に政府が自身が抱える資産と負債を計算上、相殺して正味の債務だけを抱えるようにしたとしても、誰も変化に気付かないだろう。そして統計上の公的債務のGDP比だけに目を向けているウォール街は、突然、日本を好感し始めることだろう。
これらの対策を全て講じたとして、それでも明らかに需要不足という状況に直面した場合でも、日本政府にできることはまだいくつかある。
消費税率の引き下げ、企業の投資に対する税控除額の引き上げ、低・中所得世帯への支援策の拡大、技術と教育への投資の拡大などだ。
これらの原資は全て貨幣の発行によって賄う。従来の経済学的思考からすれば、これもインフレを招くとの懸念を呼びそうだが、日本では、まさにその「懸念」が現実になることが求められているのだ。
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