米民主党が、弱者集団の声を代弁する「アイデンティティー政治」にかじを切りつつある。同党は国民を一体と考えてきたが、トランプ大統領の言動に刺激され、人種を意識した動きが増えている。しかし、各人種集団に向け明示的に訴えかけるこの流れが続けば、社会の分断を招きかねない。

 世界の人々は、米国の前大統領バラク・オバマ氏が黒人であったという事実に気を取られ、同氏が人種問題を努めて強調しようとしなかったことに気づいていなかった。同氏には人種問題に触れた記憶に残る演説がいくつかあるが、必要に迫られなければあのような演説をしたかどうかも疑わしい。

 ビル・クリントン氏もまた、人種よりも経済の眼鏡で米国を見た大統領だった。作家のトニ・モリスン氏はクリントン氏の大統領就任に大きな人種的意味を見いだしたが、それはモリスン氏が傍観者だったからだ。

 2016年の米大統領選挙でもしヒラリー・クリントン氏が勝っていたら、米国は今ごろ、この数十年で3度目の(人種問題よりも経済を重視する)実務者政権下にあったことだろう。