香港当局が6月末、一帯一路サミットを開催。55カ国・地域から約5000人が集まった。基調講演に立ったタイのソムキット副首相は「米国第一主義」を批判しつつ、一帯一路への期待を改めて表明した。バランス外交を得意とするタイ。その経済政策の司令塔が踏み込んだ発言をした背景とは。

バンコク支局 飯山 辰之介
2008年、日経BP社入社。製造業や流通業などを担当。13年、日本経済新聞に出向。15年に日経ビジネス編集部に復帰し、17年9月からバンコク支局長。
<span class="fontBold">香港で開かれた一帯一路サミットで講演するタイのソムキット副首相</span>
香港で開かれた一帯一路サミットで講演するタイのソムキット副首相

 中でも、一帯一路への強力な援護射撃を行ったのがタイだ。「(中国の)習近平(シー・ジンピン)国家主席は一帯一路を通じて各国を結びつけようとしている」。基調講演に立ったタイのソムキット副首相(経済担当)はこう話し「一帯一路こそ世界が不安定化するのを防いでいる」と持ち上げた。

 一方で、米国に対しては厳しい批判を展開した。「貿易戦争(Tax War)」を引き合いに出し、「トランプ大統領が進める『米国第一主義』は世界を混乱させている」と訴えた。

 タイがあえて米国と比較する形で中国への期待をあらわにするのは、足元の経済と長期的な成長戦略の両面で中国が不可欠な存在になっているからだ。

 タイは「輸出の伸びがけん引役となり」(大手金融機関アナリスト)、3年連続でGDP(国内総生産)を拡大させた。輸出の伸びが特に顕著だったのが中国向け。国際通貨基金(IMF)によれば、2017年の対中輸出は14年比で45億ドル増加し、対米輸出の伸び(同29億ドル)を大きく上回る。

米制裁関税の余波が及ぶ

 仮に米中貿易戦争によって中国の経済が減速すれば、タイ経済を支える柱を失う恐れがある。タイの主要輸出品目である電子部品やコンピューター関連製品の輸出先トップは中国(香港を含む)。米国がハイテク製品を中心に課す対中制裁関税の影響が玉突きでタイに及ぶ。

 中国が米国に輸出できなくなった産品が東南アジア市場に流れ込むと「タイの同市場向け輸出が落ち込むリスクもある。同市場はタイの輸出の約2割を占める」。パンヤピワット経営大学のソムポップ・マヌルサン教授はこう懸念する。

 外需に依存するタイにとって、米国の保護主義的な政策は受け入れ難い。習氏が唱える「開かれた経済」「自由貿易」に期待を寄せるしかない。

 一帯一路はタイの中長期的な成長戦略にも合致する。今後20年以内に先進国入りを目指すタイは経済社会のデジタル化がそのカギになるとみて長期戦略の柱に掲げる。中国はデジタル分野の産業育成を重視しつつ「かつてのシルクロードを『デジタルシルクロード』にしていく」(一帯一路サミット関係者)、つまり一帯一路沿いの国々に、デジタル技術を輸出したり投資を促進したりする姿勢を示す。この動きに乗ることでタイは中国から先端技術を導入できるとみる。

 実際、今年4月には中国ネット通販大手アリババ集団が110億バーツ(約370億円、現地報道)に上る大型投資を発表。5月には同京東集団がタイの小売り最大手セントラル・グループと組んで電子商取引サイトを開設した。

 域内中核国であるタイが中国依存度を今後も高めるならば、その流れは東南アジア全体で強まるかもしれない。

日経ビジネス2018年7月9日号 85ページより目次

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