ポストスマートフォンはAI──シリコンバレーでこうした見方が急速に広がっている。AIを核とする「ボット」でスマホアプリを置き換えようと、IT大手が動き出した。スマホのようなIT端末だけでなく、あらゆるモノが利用者と「会話」する時代が迫る。

シリコンバレー支局 中田 敦
1998年、日経BP社入社。日経コンピュータやITproの記者として、クラウドやビッグデータ、人工知能を担当。2015年4月からシリコンバレー支局長。

 「コンピューティングが、『モバイルファースト』から『AI(人工知能)ファースト』へと進化している」。米グーグルのスンダル・ピチャイCEO(最高経営責任者)は2016年4月の電話会見でこう語った。スマートフォン(スマホ)が普及し、IT(情報技術)端末がいつでもどこでも使えるのはもはや当たり前。これからは、人間の意図を理解するAIがいつでもどこでも付き従い、利用者の望みをかなえる。それがAIファーストだ。

 利用者はもう、スマホのアプリケーション(アプリ)をあれこれ操作する必要はない。会話ロボット(「ボット」と呼ばれるソフト)に音声やテキストで“話しかけ”さえすれば、ボットに組み込まれたAIがその意図をくみ取って、買い物をしたり、タクシーを呼んだりしてくれる。この新しい舞台で、フェイスブックやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムなど米IT大手が一斉に動き始めた。

<b>ボットに関する取り組みを発表したフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO</b>
ボットに関する取り組みを発表したフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO

 フェイスブックは4月、世界で9億人が利用するスマホ用対話アプリ「メッセンジャー」から様々な企業のボットにアクセスできるようにした。利用者がメッセンジャーにテキストを入力してボットに送信すると、ボットが様々なサービスを提供する。

 例えば「Uber」のボットでは配車を依頼できるし、「CNN」のボットではニュースが読める。生花販売の「1-800-Flowers」のボットでは花束の注文ができる。

アマゾンは音声専用端末

 マイクロソフトも3月、同社のアプリ「Skype」から企業のボットにアクセスできるようにし始めた。米サンフランシスコで開催したイベントで、米ドミノピザのボットに話しかけてピザを注文するデモを披露した。

 グーグルのピチャイCEOは「AIファーストの世界では、端末という概念がなくなる」とも語る。同社の描く未来像を先取りしているのはアマゾンだ。

 アマゾンは、利用者とボットが音声で直接会話できるなら、指示を仲介するスマホ自体が不要と考えている。同社が販売するマイク付きスピーカーの「Amazon Echo」は、同社のボット「Alexa(アレクサ)」と会話ができる。普段は音楽を再生するスピーカーだが、利用者はAlexaに話しかけることで、Amazonで買い物をすることもできる。

 アマゾン以外の企業がAlexaを通じて利用者からの音声指示を受け取ることも可能だ。例えば米フォード・モーターは1月、同社の自動車をAlexa経由で操作できるようにすると発表した。部屋の中でAlexaに話しかければ、外に止めたクルマの暖房をつけることができる。寒い冬の朝にはありがたい。

 フォードはさらに車載端末にもAlexaにアクセスする機能を搭載し、車の中から音声で買い物などができるようにする予定だ。

 スマホだけでなく、スピーカーや自動車などあらゆるモノがIT端末となる未来が近づいている。

日経ビジネス2016年5月9日号 86ページより目次

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