たわいもない「いいね!」が、ユーザーの政治信条まで丸裸にする。フェイスブックの情報流出事件は、プライバシーの“常識”を一変させた。無料サービスの対価として渡すデータの本当の価値を、考え直す必要がある。

シリコンバレー支局 中田 敦
1998年、日経BP社入社。日経コンピュータやITproの記者として、クラウドやビッグデータ、人工知能を担当。2015年4月からシリコンバレー支局長。

 3月17日に明るみに出た米フェイスブックからの情報流出事件は、日本人が持つ平均的な「プライバシー観」からすると、大した事件ではないように思えるかもしれない。流出したのはユーザーが「公開」した性別や友達関係、「いいね!」したネット上の記事や商品のデータにすぎないからだ。社会保障番号や銀行の口座情報が含まれていたわけではない。

 これらのデータは、英ケンブリッジ大学の研究者、アレクサンドル・コーガン氏が米国のフェイスブックユーザー5000万人から集めたもの。2016年の米大統領選挙でトランプ陣営に協力したデータ分析会社の英ケンブリッジ・アナリティカ(CA)が同氏から買い取った。

 しかし、この「いいね!」情報こそが宝の山だった。ユーザーが「いいね!」した記事や商品と、その人の属性との間に強い相関関係があるからだ。米スタンフォード大学のマイケル・コジンスキー准教授は13年4月に発表した論文で、フェイスブックの「いいね!」情報から、その人の性的嗜好や民族、宗教、政治信条、性格、IQ、幸福度、違法薬物の使用の有無まで推定できると実証した。米ニューヨーク・タイムズの報道によれば、コーガン氏はCAに対し「ユーザーの政治信条や銃規制に対する意見が分かる」としてデータを売り込んだという。

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日経ビジネス2018年4月2日号 126ページより目次

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