トランプ大統領のイスラム圏からの入国禁止令には世界で反対デモが発生。ロンドンの1月のデモ(写真)には100万人が参加(写真=REX FEATURES/アフロ)

マイナスサムゲームが始まる

 筆者はこれまで時折、第2次世界大戦後に築かれた経済的、または安全保障に関する秩序について、一部の要素や政策を批判してきた。具体的には国連であり、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)をはじめとした様々な組織やそのネットワークについてだ。

 これらの組織やネットワークをもっと世界に貢献できるように改革するのと、徹底的に破壊しようとするのとでは、大きな違いがある。

 トランプ氏にとって、世界は「ゼロサムゲーム」だ。だが現実にはグローバル化は良い方向に統制できれば「プラスサムゲーム」になり得る。

 オーストラリアやEU、メキシコといった米国の友好国や同盟国が力をつければ、米国自身の利益になる。だがトランプ氏は、世界をマイナスサムゲームにしようとしている。その場合、米国も敗者となる。

 その考え方は就任演説からも明らかだった。過去の米国におけるファシズムを思い起こさせる「アメリカファースト(米国第一主義)」という言葉が何度も繰り返され、トランプ氏の最も醜い企てを実行する決意であることを確証させるスピーチだった。

 これまでの米政権は例外なく、米国の利益を推進することを責務と捉え、真剣に取り組んだ。その場合の国益とは、啓蒙された共通の解釈に基づくものだった。つまり、世界経済がより繁栄し、民主主義や人権、法の支配を重視する国々との関係を強化していくことが、米国の国益になると信じていた。

問題は戦う気のない経営者たち

 トランプ氏とその側近たちが、隠していることもあれば隠さない場合もあるが、様々な偏見や女性蔑視に満ちているという認識が広がる中、寛容や平等といった絶対に譲れない基本的な価値観のもとに新たな連帯感が生まれつつある。この連帯感は、今や世界に広まり、トランプ氏と彼の仲間たちは、民主主義世界のあちこちで拒絶され、抗議を受けており、このことは今のトランプ氏の世界の中にあって多少なりとも希望の持てる兆しと言える。

 米国では、トランプ氏が大統領に就任するや個人の権利を踏みにじるだろうと見越していた米国自由人権協会(ACLU)は、正当な法の手続きや平等な保護、国家の宗教的中立性といった憲法の基本的な原則を今まで以上に強く守るべく闘うつもりだとしている。ここ1カ月で、米国人によるACLUへの寄付額は数百万ドルに達したという。

 同様に、米国全土で企業の従業員や顧客が、トランプ氏を支持するCEO(最高経営責任者)や企業役員に対する懸念を表明している。実際のところ、米国の企業幹部や投資家たちは、トランプ氏の事実上の支援者となっている。

 今年1月、ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)で、彼らの多くは、トランプ氏が進めようとしている減税や規制緩和などの約束によだれを垂らしているようだった。その一方で、彼らはトランプ氏の差別主義や保護主義については無視を決め込んでいた。特にトランプ氏の差別主義について異を唱える者は、筆者が出席したどの会議においても皆無だった。

 さらに憂うべきは、経営者らが勇気に欠けている点だ。トランプ氏について懸念していても、声を上げようものならツイートの矛先が自分(または自社の株価)に向けられるかもしれないと心配しているのは明らかだった。