トランプ米大統領は、イスラム圏からの入国制限やメキシコとの国境の壁建設など選挙中の公約を次々と実行中だ。経営者らは新政権の減税と規制緩和に浮かれる一方、トランプ氏の攻撃対象になるのを恐れ必要な声を上げない。だが世界が“マイナスサムゲーム”に陥らないためには今こそ現実逃避せず、警戒心を高め声を上げるべきだ。

ジョセフ・スティグリッツ氏
1943年米国生まれ。米アマースト大学卒、67年米マサチューセッツ工科大学で経済博士号取得。95~97年クリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長、97~2000年世界銀行のチーフエコノミスト。2001年にノーベル経済学賞受賞。現在は米コロンビア大学経済学部教授。2011年に米誌「タイム」の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれる。『世界の99%を貧困にする経済』など著書多数。

 ドナルド・トランプ氏は、大統領就任からわずか1カ月で、あろうことか目まいのするような勢いで混乱と不安をまき散らしている。いかなるテロリストもこれだけの不安を人々に抱かせることができたならば、自分を誇りに思うに違いない。

 企業や社会、政府に属する指導者や市民たちは当然、これらトランプ氏のもたらす混乱に対して、適切かつ効果的な対応をしようと四苦八苦している。

発言通りのトランプ大統領

大統領就任直後からイスラム圏からの市民の入国を禁じるなど大統領令を連発、米政権運営は混乱を極めている(写真=AP/アフロ)

 今後の先行きについてどんなに鋭い洞察をしても、それはいずれ修正せざるを得ない。というのも、トランプ氏はまだ詳細を詰めた法案を何も提出していないし、議会も裁判所も、集中砲火のごとく発令された大統領令に対し、まだ対応に追われている最中だ。

 だが、この先が不透明だからといって、現実逃避していいわけではない。

 それどころか、トランプ氏の発言やツイートは真面目に受け止めるべきものだということが明らかになっている。

 昨年11月の大統領選直後は、トランプ氏が大統領に就任すれば、選挙活動中の過激な発言や姿勢は消え去るとの期待がほぼ世界に広がっていた。

 非現実的な世界に君臨するこの男が、世界で最も権力のある地位とされる米大統領としてのすさまじい責任を負うようになれば、別人のように変わるに違いない、と期待されていた。

 実は過去にも、新たな米大統領が誕生するたびに似た事態は発生していた。当選したのが自分の投票した候補者であろうとなかろうと、その新大統領には自分たちが望む通りの大統領を投影し、期待を抱いてしまう。

 だが、当選者はたいてい八方美人になりがちなのに対し、トランプ氏は疑いの余地なく、選挙戦中にやると言ったことはすべてやるつもりだ。

 つまり、イスラム圏7カ国からの入国の制限、メキシコとの国境の壁建設、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の撤回、それ以外にも彼の支持者でさえ異議を唱えるありとあらゆるものだ。