1月20日の大統領就任式を間近に控えるドナルド・トランプ次期大統領。選挙中の過激な言動は修正されつつあるが、同氏の政策には不透明な部分が多い。何が選挙向けの方便で、何を本当に実行するのか。発言の変遷や人事を通して占う。

通商政策や移民政策など核となる領域には主張が一貫しているものも多い(写真=AP/アフロ)

 あらゆる面で想定外だった米大統領選。その中でも事前の想定と真逆の方向に動いたのは金融市場の反応だろう。大統領選前、ドナルド・トランプ氏が勝利すれば市場は大混乱に陥るという声が多数聞かれたが、現実には同氏が公約した財政支出や減税、規制緩和などを好感、ダウ工業株30種平均は選挙以降、10%近く上昇している。

 市場の雰囲気が変わった背景には、同氏が選挙中の過激な発言を現実路線に修正しつつあるという安心感がある。

 トランプ氏は「メキシコ国境に壁を築く」と連呼していたが、最近は場所によってはフェンスで構わないと主張を軟化させた。また、大統領選の序盤にはイスラム教徒の入国禁止を強く訴えていたが、選挙後は特定の地域から入国した人物に対する「徹底的な審査」と語るにとどめている。

 完全撤廃を主張していた医療保険制度改革法(オバマケア)についても、性急な撤廃には慎重な立場を取り始めた。日本や韓国の核武装を容認することにも現在は否定的とみられる。

 ウォール街や企業、投資家に融和的なのも選挙中とは異なる顔だ。選挙中は民主党のヒラリー・クリントン候補とウォール街との関係を批判していたが、当選後は財務長官に米ゴールドマン・サックス元幹部のスティーブン・ムニューチン氏を、国家経済会議の委員長にも同社のゲーリー・コーン社長兼COO(最高執行責任者)を指名した。大統領選後の株価上昇は、金融業界に対する規制緩和期待が反映している面もある。

 労働政策や環境・エネルギー政策で規制緩和を進めるとの明確なメッセージも発している。米CKEレストランツのアンドルー・パズダーCEO(最高経営責任者)を労働長官に、リック・ペリー前テキサス州知事とスコット・プルイット・オクラホマ州司法長官をエネルギー長官、環境保護局長官に起用した。パズダー氏はオバマ政権による最低賃金の引き上げや超過勤務手当の対象拡大を批判している。ペリー氏とプルイット氏は地球温暖化に懐疑的だ。

 元来、トランプ氏はビジネスの世界で活躍した経営者。その時々で支持政党を変えているように、特定の主義主張や価値観にこだわらない実利的な状況主義者だ。選挙に勝つための戦術として過激な発言を繰り返したが、現実的な政権運営をするのではないかという楽観論を唱える人々が増えつつある。

トランプ氏の「不変のコア」

 ただ、一貫して主張を変えていない領域もある。典型は通商政策、とりわけTPP(環太平洋経済連携協定)だ。

 選挙戦の序盤から最悪のディールと酷評、就任初日に離脱を宣言するとトランプ氏は再三明言している。安倍政権はトランプ氏を翻意させるべく全力を傾けているが、米国を含めた現在の枠組みは事実上、終わったという見方が支配的だ。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉と不調に終わった場合の離脱も「就任100日以内の行動計画(100日プラン)」で宣言している。

 10年間で2500万人の雇用創出を公約するなど、質の高い雇用を生み出す方針にぶれはない。トランプ氏は米国の貿易赤字を問題視しており、製造業の国外移転には厳しい態度で臨む恐れがある。

 それは一部で現実になっている。米空調大手キヤリアや米自動車大手フォード・モーターが計画していたメキシコ新工場の建設はトランプ氏の批判によって白紙撤回に追い込まれた。小型車をメキシコから輸入している米ゼネラル・モーターズ(GM)や、2019年にメキシコで新工場を稼働させるトヨタ自動車も批判にさらされている。豊田章男社長は米デトロイトの北米自動車ショーで、今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1600億円)を投資すると発表した。