「大きいことはよいことだ」を信じて成長を追求した大企業は今、分岐点に立たされている。自社の戦略を株主や社会にどう理解してもらうか。新たな動きが現れている。低成長時代、大企業は自らの手で、会社の新しいカタチを探り始めた。

(写真=つのだよしお/アフロ)
(写真=つのだよしお/アフロ)

 市場からの調達額は2兆6000億円。その規模は、中国のネット通販最大手アリババ集団の米ニューヨーク市場での上場と肩を並べる世界最大級──。

 2018年12月19日、大手携帯電話会社ソフトバンクが上場した。新規上場に伴う調達額としては1987年のNTTを上回り、国内最大。31年ぶりに「バブル超え」を果たした。初値は公開価格1500円より2.5%安い1463円で、初日の終値は1282円にとどまった。

18年12月、携帯電話のソフトバンクが上場を果たす(写真=AFP/アフロ)
18年12月、携帯電話のソフトバンクが上場を果たす(写真=AFP/アフロ)

 グループ総帥の孫正義の目に、この結果はどう映ったのだろうか。

 「上場は、コングロマリットディスカウントからの解放だ」

 2018年2月のソフトバンクグループ(SBG)のIR説明会で、孫はそう説明した。携帯会社ソフトバンクは、持ち株会社SBGの100%子会社。他にもSBGはヤフーや米携帯4位のスプリント、英半導体大手のArm、中国のアリババ集団、さらにはサウジアラビア政府系ファンドと組んだソフトバンク・ビジョン・ファンド(通称「10兆円ファンド」)を持つ。

 これらSBGが保有する傘下上場企業株の時価総額はソフトバンク上場前で合計約15兆円。一方、SBGの時価総額は約9兆円。多額の有利子負債が重荷になっていたこともあるが、SBGに対する評価の低さが孫の不満だった。

 UBS証券エグゼクティブディレクターの居林通は、「上場企業が違う事業を持っていると、『メモリー事業は評価できるが、原発事業はダメだ』などと考え、値引いて評価せざるを得ない」と語る。この「コングロマリットディスカウント」の解消を孫はもくろんでいた。

 SBGはソフトバンク上場後も、同社の発行済み株式のうち63%を保有する「大株主」であることには変わりない。理屈の上では、上場でソフトバンク株に市場価格がつけば、SBGの時価総額も保有株の価値を反映し、増加に向かうはず。だが、さえない市況も足を引っ張り、ソフトバンク上場でSBGの時価総額は増えなかった。

 ここに、大企業の苦悩が透けてみえる。かつて大企業は本業の成長が鈍化すると、新規事業を立ち上げたり、成長企業を買収したりすることで財務の数字を膨らませてきた。

 その一方で、株主が求める会社の姿との乖離が広がってしまう。しかも、株主の思惑も多様化している。かつて日本では、金融機関や大企業同士が互いの株を保有し合う「持ち合い」が横行し、そんな「モノ言わぬ株主」の存在が、低成長や株主還元の低さにつながっていると批判された。

 1990年代以降、持ち合い解消が進むと、そこに外国人投資家や機関投資家がなだれ込み、短期利益と高配当を経営陣に求めた。だが、企業の将来性に資金を投じる株主や、株主優待が目当ての株主もいる。

 企業の巨大化と株主の多様化がもたらすミスマッチに経営者は頭を悩ませている。解消する方法としてSBGのように子会社の上場や事業の分離に踏み切る動きも予想される。

株主を選び始めたトヨタ

 経営陣と株主の描く時間軸を調和させるべく、「株主を選ぶ」という動きも出ている。

 株式市場で「反乱」にも近い手法をとったのが、日本を代表する大企業、トヨタ自動車だった。

 2015年6月16日、トヨタの株主総会は荒れて、3時間以上に及ぶ異例の長丁場となった。原因は、会社が提案した新型株式だった。

元本保証の種類株を発行
●トヨタAA型種類株式の概要
元本保証の種類株を発行<br /><span>●トヨタAA型種類株式の概要</span>
名称の「AA型種類株式」は、トヨタ自動車が1936年に初めて出した量産車「AA型乗用車」から来ている(写真=共同通信)

 「トヨタAA型種類株式(通称AA株)」。5年間は売却ができない譲渡制限が付いている代わりに、配当が年に0.5%ずつ上がっていき、5年目以降は2.5%となる。その後は普通株への転換や、発行額で買い戻してもらうこともできる。いわば元本保証付きの株だ。

 「株主平等の原則に反する」。反論が噴出する総会となったが、社長の豊田章男は「創業時、仲間に加わったのは銀行だった。これからは株主の皆様です」と訴え、75%の賛成で可決された。

 「地球の裏側から、短期利益を目的にトヨタ株を買うのはどうなのか」

 かつて、トヨタ副社長はそう語ったことがある。

 電気自動車や自動運転など、自動車業界は激変期に差し掛かり、短期の業績で企業を評価する株主とは、将来の成長戦略で、ベクトルが一致しにくい。そこで、トヨタのAA株のように、株主を会社の考え方に賛同する人に切り替える動きは、今後も様々な形で出てくるだろう。それは、株主と経営を有機的に結びつけることに他ならない。

 未来を見据えた「大企業」は、株式市場にこんなメッセージを送る。物流コンサルティング会社、アスア(名古屋市)は2年後の上場を目指している。だが、トップはこう宣言している。

 「株主のためだけに上場するわけじゃない。社員や取引先、顧客、地域のために経営し、利益を配分していく」

 社長の間地寛は、共感してくれる投資家を求めている。

 「それで株価が低くスタートしても構わない。すべての関係者に報いる会社の方が、最後は支持される」

続きを読む 2/5 地域の目線で考える

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