不透明感極まる2017年。企業を、国を導く「リーダー」がこれほど重要な年はない。彼らは世界をどこへ導こうとしているのか。
彼が金融庁長官とは、日本は幸運だ
森 信親
Nobuchika Mori
金融庁長官

text by ジェラルド・カーティス
米コロンビア大学名誉教授
経済政策の立案者や規制当局者も、軍事戦略家と同様、「済んだ戦争をもう一度戦う(fight the last war)」傾向がある。日本の銀行は、不動産市場の崩壊によるトラウマや、それに続く20年ものデフレにより、リスクを取ることを恐れるようになった。金融庁は過去の過ちを繰り返さないため、金融システムの警察官として、ルールを徹底し、違反した銀行を罰してきた。
これが、2006年に森君が金融庁に異動したときの状況である。その前の3年間、彼はニューヨークで勤務し、市場参加者や経済学者、ニューヨーク連銀等の当局、さらには私のような政治学者とも議論をして、日本が直面する課題や対処方法への深い知見を得た。
彼は、金融当局は金融機関のルール順守を確認するだけでは不十分で、金融システムの安定と経済成長の促進に、同時に貢献すべきと考えている。リスクを回避する一方で、広範な規制権力を持つ官僚制度で名高い日本において、過剰規制の危険性や金融機関がリスク回避になり過ぎて経済成長の原動力の機能を果たさないことを、国内外の同僚らに警告している。
彼は、過去の過ちを繰り返さないためにどうするかより、いかにして日本が未来の成功を達成できるかに目を向けている。金融庁長官としてリーダーシップを発揮して、規制面での改革のみならず、日本のビジネスや銀行界の慣行に根本的変化を起こしている。彼の考えは、日本の政治家・銀行・企業の幹部、外国投資家や世界中の当局者の間で注目されている。彼のような真の改革者、指導者が金融庁の長官である日本は幸運である。
この男、福耳だけじゃない
岡藤正広
Masahiro Okafuji
伊藤忠商事社長

text by タニン・チャラワノン
タイCP(チャロン・ポカパン)グループ会長
最初にお会いしたのは3年前。念願だった面会が実現し、自家用ジェットで東京を訪れた。
昼食会でのこと、お会いしてすぐ「中国で一緒にビジネスをしましょう」とストレートにこちらから持ちかけた。伊藤忠商事はCPグループよりかなり以前から、中国に進出してビジネスをしている。そのため、話は大いに盛り上がった。
岡藤さんは即断即決の経営者だ。リスクを取り、変化を恐れない経営者であることもお会いしてすぐ分かった。昼食会でも具体的な出資話をあえて持ち出し、事業提携を一気に進めた。オープンな人柄で決断を躊躇しない。理路整然と話し、伊藤忠をもっと発展させたいという意気込みがある。だから「伊藤忠と組める」と確信した。
岡藤さんが「福耳」であることも提携の決め手となった、と報道されているが、無論、それだけではない。事業拡大への考えに共感したからだ。これからは、中国中信集団(CITIC)との3社の提携で実益あるビジネスをしていきたい。
変化を恐れない日本人経営者は私の知るところでは2人だけ。岡藤社長と私の大切な友人だったミネベアの高橋高見元社長だ。
日本企業に変わるべきところがあるとすれば、あまりにも安全主義なところだろう。何もしない人が、減点主義の組織の中で出世していくことはよくない。トライしてミスをしても、そのミスを取り戻すチャンスを与えるような社会に日本が変われば、米国を追い抜くこともできるだろう。
その意味で、岡藤さんみたいなトップが日本企業にもっと増えてほしい。
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