混迷の時代、日本は世界の強者とわたり合わねばならない。タフネゴシエーターたちの壁をどのように乗り越えればよいのか。まずは「世界の意思決定者」たちを、もっとよく知る必要がある。
14億人のリーダーの理想と現実
習 近平 Xi Jinping
中国国家主席

text by エズラ・ボーゲル
米ハーバード大学名誉教授
1953年に生まれた習近平氏は、2012年に中国共産党の中央委員会総書記に就任し、その地位に2期10年とどまると見られている。習氏は公約通り、政治の腐敗を撲滅すべく大胆な取り組みに乗り出し、共産党による指導体制のさらなる強化を進めた。
習氏の父親の習仲勲氏は中国の副首相(国務院副総理)を務め、改革派として知られた人物である。
習氏の青年時代は文化大革命期に当たる。そのため地方で労働に従事し、その間、高等教育は受けなかった。
1978年に改革開放路線へと舵を切った鄧小平氏と比べると、習氏には最高指導者になる前の外交の経験や、海外で暮らした経験、国家的政策を立案した経験がなく、軍部での経験も乏しい。
習氏は国家の最高責任者として、軍をはじめ、政府の様々な分野の改革を自らの直轄とする少人数からなる「小組」に任せることにより、党全体の権限を掌握していった。
腐敗撲滅を進め、共産党幹部たちの贅沢な暮らしを抑え込んだことで、国民からの支持は高いが、一部の知識人は公の場における議論や言論が厳しく規制されていることに懸念を強めている。
増大する中国の軍事力と経済力を背景に、東シナ海と南シナ海においては強硬な姿勢を貫いており、中国と中東、欧州を陸海路で結ぶ「一帯一路」という大胆な構想の実現も進めている。
しかし、減速する経済成長の舵取りから、社会福祉の充実、他国との交渉における中国の優位性の確保、さらには多様性に富む中国社会の秩序の維持など難問も多く抱えている。
ナイスガイ。だが余計なことは一切言わない
ウラジーミル・プーチン Vladimir Putin
ロシア大統領

text by 佐藤 優
作家、元外交官
私は外交官時代に、首脳や要人との会談に通訳やノートテイカー(記録係)として、4回、すぐそばで、観察したことがある。
プーチンは、相手の気持ちを考えることができ、ユーモアのセンスに富んだナイスガイだ。しかし、自分から余計なことは一切話さない。リップサービスもなければ、暴言もない。自分の発する言葉には全責任を負うというのがプーチンの特徴だ。
さらにプーチン政権になってから、日本側が公式、非公式でプーチンにつながるあらゆるルートを通してシグナルを送っても、ブラックホールに吸い込まれたように反応がない。
そして、プーチンが適切と考えるタイミングで、テレビや新聞のインタビューに答える、記者会見で発言するなどの「平場」でシグナルが戻ってくる。
愛想のよさもブラックホールのような対応も、ロシアのインテリジェンス機関の特徴だ。
旧KGB(ソ連国家保安委員会)で対外インテリジェンスを担当する第1総局(現在のSVR=ロシア対外諜報庁の前身)に勤務していたプーチンには、インテリジェンス・オフィサーの思考と行動が身体化している。
それだから、プーチンと噛み合った交渉を行うには、ロシア外務省を通じた通常の外交だけでは不十分で、SVRとの意思疎通をよくしておくことが重要だ。プーチンは外務省よりもSVRの情報と分析を信頼するからだ。
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