瀬戸際まで追い詰められたからこそ、実現できることがある。アゲインストの風の中で立ち上がる「再挑戦者」たち。苦境を超えた先に、彼らはどんな未来を描くのか―。

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苦境に必要な「一緒に働きたくなる人」
井阪隆一 Ryuichi Isaka
セブン&アイ・ホールディングス社長

(写真=千倉 志野)

text by 安永竜夫
三井物産社長

 価値や品質に対して、決して最後まで諦めない自分に厳しいタフな完璧主義者である。

 研究を重ねたおでんのダシや、徹底的にこだわった「セブンカフェ」、さらには11回もの試作・変更を経てようやく販売にこぎつけたという冷やし中華など、井阪氏の商品開発にまつわる妥協知らずのエピソードは、数限りない。

 この強靭な精神を支えているのは実は彼の謙虚さにほかならない。

 井阪氏の根底には、「一人では何もできない」という、周りへの絶えざる感謝と敬意がある。この想いが、社員はもとより、取引先やセブンイレブン加盟店への人間味あふれる対応に表れている。

 だから、皆が彼と働きたくなるのだ。一緒に夢を追い掛けたくなる。私にとっても、夢を一緒に語れる信頼できる素晴らしいビジネスパートナーだ。

 全身全霊で立ち向かう、この勇敢なリーダーを突き動かしているのは、「セブンイレブンは国民生活にとって不可欠な生命線である」という強い使命感だ。そしてその思いは、東日本大震災でも発揮された。自ら陣頭指揮を執り、いち早く被災地の店舗に品物を並べたのだ。

 今や世界屈指のリテーラーのトップとして、今後も「近くて便利なライフイノベーション」を提言してくれるだろう。私もとことんお付き合いします。

Profile
2016年、お家騒動に揺れたセブン&アイの新しいリーダー
1957年生まれ、東京都出身。青山学院大学卒業後、セブン-イレブン・ジャパンに入社。2009年に同社社長に就き、2016年5月から現職。
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あえて火中の栗を拾う正義感
安達 保 Tamotsu Adachi
ベネッセホールディングス社長

(写真=竹井 俊晴)

text by 南場智子
ディー・エヌ・エー会長

 抜群のマチュリティー(成熟さ)、抜群のインテグリティー(高潔さ)、抜群の安定感、抜群の信頼感──。

 リーダーとしての安達さんは非の打ち所がなく、クライアントからも相当、信頼されている。日本のエリートを具現化したような経歴を持ち、グローバルにも仕事ができる。内側には強い感情を秘めているが、柔和でそれを表に出さない。自制の利いた人格者だ。

 そんな安達さんは私たち夫婦にとって、かつて、マッキンゼーで一緒に働いた年上の上司。しかし、プライベートの場では上下を全く感じさせない屈託のなさで、一緒にいて本当に楽しい。

 家族ぐるみで長く親しくお付き合いさせていただいている。お互いの自宅を訪問し合うし、一緒にバケーションを過ごすこともある。みんな寝始めたのに1人で大声でカラオケを歌い続け、こちらが寝不足になることも。そんなふうに茶目っ気はあるが、家族マージャンは滅法強い。とても賢く、勝負勘が強いのでしょうね。

 プライベートな場でも経営に関する話題に及ぶと「こういうことは許せない」と強い正義感、倫理観を覗かせる一面がある。ガバナンスやコンプライアンスに関して高い基準を持っている。このことは今、私もとても痛感している。

 ベネッセグループの経営環境はここ数年とても厳しいが、あえて、難しい仕事を引き受けた。思い切った意思決定をして、安達さんの良心がいかんなく発揮されれば、お客である保護者の信頼を奪回し、事業を再構築していくことだろう。社員も皆、ついて行く。最適なトップだと私は思う。

Profile
厳しい経営環境が続くベネッセの再生請負人
1953年生まれ。三菱商事、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2003年カーライル・ジャパン・エルエルシー日本代表。2016年10月から現職。