不祥事対応に不誠実さがあった時、失望するのは社会だけではない。内実を最もよく知っているのは社員だ。建前だけの対応で取り繕おうとすれば「この会社には自浄能力がない」と社員が判断し、再生のチャンスは失われる。

法令違反はもちろん、性差別的な表現から接客マナーまで、あらゆるテーマが炎上の火種になり得る。そのすべてのリスクを企業が事前に予見し、防ぎ切ることは難しい。

だからこそ重要になるのは有事の後の言動だ。真摯に再発防止に取り組む姿勢こそが、長い目で見れば最大の火消しになる。
会社の発表やトップの発言がその場しのぎかどうかを見極めるのは、何もメディアや世間だけではない。問題の本質を肌感覚で知る社員・従業員は、最も厳しい評価者と言える。
企業内部のコミュニケーションをおざなりにした結果、炎上が広がったのが、電通だ。。
「経営陣を見ていてもこの会社が良い方向に向かうとは到底思えない。今こそ会社を変えなければならないのに…」。電通の30代男性社員は曇った表情でこう話す。

昨年12月、新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)が過労自殺した。その後、労災と認定され、母親の高橋幸美さんらが記者会見を開いたのは今年10月7日。「労災認定については内容を把握していない」。電通は広報部門がそうコメントしただけだった。
入退館ゲートで自動集計されたデータに基づく残業時間では月130時間を超えることがあるなど、高橋さんは激務をこなしていた。しかも電通は自殺直前の昨年8月に労働基準法違反で是正勧告を受けたばかり。いやが上でも社員の関心は高まっていたが、経営陣がメッセージを発信することはなかった。
その後、事態は悪化の一途をたどることになる。
東京労働局などが電通本社への任意の立ち入り調査に踏み切った10月14日。「極めて厳粛に受け止めている」。調査に合わせ、石井直社長はようやく社員に緊急メッセージを送った。
同時に人事部門も動いた。午後10時に会社を一斉消灯し、残業時間の上限を短縮するといった再発防止策を通達したが、社内ではこうした慌ただしい動きは好意的に受け止められなかった。ある社員はこう吐き捨てる。
「メッセージからは高橋さんが亡くなったことへのおわびや反省が感じられなかった。タイミングを見ても、社会からの批判が高まっていることを気にして形だけの対策を打っただけだ」
11月7日には、厚生労働省が電通本社と3支社に労働基準法違反容疑で強制捜査に入った。その最中、本社に隣接する電通ホールで1時間にわたって熱弁を振るう石井社長の姿があった。
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