全3472文字

空前の起業ブームの中、玉石混交といわれてきた中国のスタートアップ。その中から世界の先端領域で互角以上に戦う企業が大量に生まれ始めた。

 韓国サムスン電子でも中国華為技術(ファーウェイ)でも米アップルでもない。「次世代スマートフォン」のトップランナーに躍り出たのは、創業わずか6年の中国のスタートアップだった。

 「毎日使っていて、もう手放せないですよ」。中国南部のハイテク都市、深圳に本社を置く柔宇科技(ロヨル)の劉自鴻・董事長CEO(最高経営責任者)がこう言って手に取ったのは画面サイズが7.8インチの小型タブレット。両手で両端を押すと、画面が曲がり、2つに折り畳むとちょうどスマートフォン(スマホ)の大きさに。劉CEOは端末を耳に当てて、これが電話として使えることをアピールしてくれた。

OSも自社開発

 この端末こそ、「次世代スマホ」と目される「折り畳み式スマホ」だ。11月1日に「フレックス・パイ」という名称でロヨルが発売。キーボードを利用すればノートパソコンとしても利用できる。「様々な形状に合わせて最適な操作ができるよう、(米グーグルのOS=基本ソフト)アンドロイドをベースに自社でOSを開発した」(劉氏)

柔宇科技(ロヨル)が発売した「フレックス・パイ」
(写真=Imaginechina/アフロ)

 従来の常識では考えられないような機器そのものの変形を可能にしたのは、独自開発のフレキシブル有機ELパネルのおかげだ。紙のように薄く、パネルというよりシートと呼んだほうがしっくりくる。だが丈夫さは折り紙付きだ。20万回以上の開閉テストをクリアし、金属製のフォークでひっかいても傷がつかないという。

 デジタル表示の可能性を広げる有機ELのフレキシブルディスプレーは世界大手が開発競争にしのぎを削る。ロヨルが製品を発売してから6日後の11月7日、今度はサムスン電子がフレックス・パイ同様の製品を開発者向けイベントでお披露目した。だが、現時点で一般向けに発売しているのはロヨルだけだ。

 なぜ創業6年のベンチャーが、巨人がひしめく熾烈な競争環境の中で先頭を走ることができるのか。「多くの事業を抱える競合企業に対して、我々はフレキシブルディスプレー一筋。一心不乱に事業を続けてきた」と劉氏は語気を強めた。支えるのは20カ国・地域から来た2000人以上の社員だ。

劉自鴻・董事長CEO(最高経営責任者)
(写真=町川 秀人)

 劉氏は1983年生まれ。北京大学と双璧をなす中国トップの名門、清華大学から米スタンフォード大学へ進み、フレキシブルディスプレーに関する研究論文で博士号を取得した。だが、当時はこの「曲がるディスプレー」の実用化にまともに取り組もうという会社はなかったという。

 「30年から50年はかかるよね」。劉CEOがどの企業に話を持ち掛けても、返ってくるのは懐疑的な反応ばかり。「起業以外の選択肢はなかった」と振り返る。「シリコンバレーとよく似た空気がある一方で、金融投資や電子機器関連のサプライチェーンに強みがある」深圳で、2012年にロヨルを創業した。