間接部門の膨張とモンスター化を防ぎ、直接部門との不協和音をなくす策は限られている。一つはITを活用し社員の多能工化を進め、間接部門そのものを社内から「なくす」こと。もう一つは、経営陣、直接部門、間接部門が「互いに認め合う」ことだ。

(写真=Indeed/Getty Images)

 東京都立川市に本社を置くメトロール(松橋卓司社長)。高精度の位置決めセンサーで世界トップクラスのシェアを持ち、海外64カ国に販路を持つ年商18億円の小さなグローバル企業だが、この会社にはいわゆる「間接部門」が存在しない。

 「全員が直接部門」という離れ業が可能なのは、営業、開発、製造の社員全員で、総務、人事、経理などの間接業務を少しずつ分担しているからだ。

メトロールの本社(上)では、様々な年齢層の社員が多能工として能力を発揮する(下)

間接部門を「なくした」会社

 「総務の仕事は全部“みじん切り”にして、できる限り全員でシェアする。人事だって、十分解体できる。徹底的に細分化し皆で分け合えば、さほどの負担にならない」。松橋社長はこう話す。その結果、同社の社員の多くは「多能工」だ。

 例えば、人を見抜くための心理分析の講習を受けた設計部門の社員が、新卒採用など所属部門とは全く関係のない仕事をする。松橋社長の言う通り、本来なら間接部門が手掛ける仕事は、給与計算から経費精算、備品管理、福利厚生制度整備、労務管理、オフィスの管理まで、徹底的なIT(情報技術)化で細かく“みじん切り”され、社員一人ひとりがそれを担う。

 PART3では、「これからの時代は、人事や法務などの間接機能が社内になければ、快適な職場環境や、時代を切り開く斬新な商品を生み出しにくい」と指摘した。だが、こうした組織運営を追求していけば、その限りではなくなる。たとえ人事部や法務部がなくても、“オフィス管理担当の営業マン”が「社員がより働きやすい職場環境」を考え、“法制度に詳しい製造ライン担当者”が「新商品のリーガルリスク」を洗い出すからだ。

 メトロールは1976年、松橋社長の父である章氏が創業した。章氏は東京大学卒業後、大手精密機械メーカーに就職し胃カメラの開発に従事。その後、別の大手精密機器メーカーに転職し事業部長まで務め上げた。

 大企業での会社員人生を通じ痛感したのが、「間接部門の意見だけが尊重される組織では、技術者は挑戦できずに翻弄されてしまい、幸せになれない」というものだった。

 こうして章氏は52歳で独立を決意。“間接部門が存在しない会社”の経営に乗り出す。松橋社長はその意思を継ぎ、さらにその思想に磨きをかけた。

 その効果は既存社員の活性化のみならず、人材確保にも威力を発揮しており、現在122人いる従業員の中には、名だたる大企業から転職してきたベテラン技術者や、海外からの専門的な問い合わせに対応できるTOEIC800点以上の営業職員なども在籍する。

 「間接部門がないということは、ルールや規則に縛られている社員がいないということ。現場を知らない人間に拘束されることなく、自律的に生き生きと仕事をして成果を上げている」。松橋社長はこう強調する。

 メトロールのように「全員プレーヤー化」までいかなくても、最近は、同じようにITを駆使することによって、一定規模の企業であれば、工夫次第で間接部門の人員を極限まで縮小することは可能になってきている。

 「クラウド技術を駆使すれば、大企業であっても総務部門は1人でこなせる」。こんな大胆な提言をするのは、総務担当1人を実現する基幹システムを販売するスマイルワークス(東京都千代田区)の坂本恒之社長だ。

 例えば、同社のクラウド会計ソフト「会計ワークス」を活用すれば、所定のデータを入力することで月次データや決算書などを自動作成してくれる。また、給与計算ソフト「給与ワークス」を使えば、未経験のスタッフでも一連の給与計算業務が可能になる。

ITの発展で「多能工化」は飛躍的に容易に
●1人で管理部門を担うために使える代表的なクラウドサービス
●RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)で人手不足と無縁に