直接部門から湧き上がる不満に対し、当の間接部門からは戸惑いと反論の声が上がる。「雑務を増やしているかもしれないが、全て法令順守と効率化のため」が共通の見解だ。「それにしたって他にやりようがある」と主張する直接部門との溝は、簡単には埋まりそうにない。

(写真=不動明王像:日本美術研究所 長田 晴鳳氏 提供、炎:Michael Krinke/Getty Images)

 「『成果主義でポイントを稼ぐため、間接部門が余計な仕事を増やしている』なんてとんでもない。経理や財務などは四半期の決算ごとに仕事が押し寄せ、それこそ直接部門などよりずっと過労死の危機にさらされている」。大手サービス業のベテラン人事部員、A氏(48歳)は、取材班が集めた直接部門の声を聞くなり、こう反論する。

 特にA氏が語気を強めたのは、Eラーニングについての話題に及んだ時だ。「Eラーニングは、むしろ、直接部門のことを思って導入している仕組み」とA氏は強調する。

「最も現場に負担をかけない方法」

 2000年代以降、「ISO」「ISMS」「プライバシーマーク」などの認証ブームが日本企業の間で沸き起こった。国際および国内の公的機関が認証する規格の取得は、他社との差別化や自社の信用力向上につながるとして、現在も多くの企業が活用。例えばプライバシーマークは約1万5000社、ISMSも5000社超が取得している。こうした認証を維持するには審査機関に「社内で教育と内部監査を周知徹底している」という記録を定期的に提出せねばならない。

「全て直接部門のためを思ってのこと」
●間接部門が主張するEラーニングが必要な理由

 「だからといって、頻繁に集合研修を実施しては、それこそ直接部門の仕事を邪魔してしまう。Eラーニングで空き時間を活用してやってもらうのが、最も負担にならない」(A氏)。A氏の話は紛れもない事実で、各種認証の取得を支援するLRM(大阪市中央区)の幸松哲也社長も「確かに周知徹底の記録はEラーニングが有効」と話す。

 「雑務を増やしているのは事実かもしれないが、いずれも法令順守のため」。こう話すのはサービス業で総務を担当するB氏(35歳)だ。会社の事業は順調に拡大中だが、新たな出店が決まるたびにB氏は憂鬱になる。その都度、新店舗のメンバーに、2日間に及ぶ「防火管理講習」への参加をお願いしなければならないからだ。

 「防火対象物の管理権原者は、有資格者の中から防火管理者を選任して、防火管理業務を行わせなければならない」。消防法はこう定めており、新たにオフィスを借りる場合、企業はそこに通勤する者の中から代表者を選び、最寄りの消防署などへ派遣し、防火管理の講習を受けさせる必要がある。

 とはいえ、一日でも早くビジネスを立ち上げたい現場にしてみれば、約10時間の講習は相当な負担になるのもまた事実。その不満は、B氏と総務に向けられることになる。

会社は法律で健康診断の実施を義務付けられている(写真=アフロ)

 そんなB氏に昨年からまた一つ、悩みの種が加わった。2015年末から始まった「ストレスチェック」だ。労働安全衛生法の改正で、50人以上雇用している事業所に対し、毎年1回、全ての労働者への検査が義務付けられた。同法では既に、健康診断の義務を定めている。やはり50人以上の労働者を使用している事業者は、年1回、労働基準監督署に全従業員の定期健診の結果を報告せねばならず、総務は毎年、直接部門に対し健診を懸命に呼びかけることになる。

 「既に定期健診の要請だけで、『自分の健康は自分で管理する』『総務からのしつこい“健診を受けろプレッシャー”こそストレス』といった文句や嫌みが聞こえている。ストレスチェックが加わったらさらに不満が高まるのは明らか。でも、文句があるなら国に言ってもらいたい」(B氏)

「文句は国に言ってほしい」
●法律により定められている主な雑務