「たかが英語に人や企業が振り回されてどうする?」と言う人は多い。だが今後、国内マーケットが縮小する中、英語の必要性は増しそうだ。どうすれば仕事で役立つ英語が確実に身に付くのか。

個人

TOEICスコアより伝える話法、聴かせる技術

INTERVIEW
「場数」を踏むのが大事

 苦労してTOEICで高い点数を取ったのに英語が話せない? 当たり前だよ! 出世のために実用性のない英語を勉強しても意味はないよ。

 いつまでも英語が話せない人は、話そうとしていないだけ。話せるようになるかどうかは「場数」で決まる。米国の赤ちゃんが英語を話せるようになるのは「場数」を踏むからだよ。今は、日本にいても無料で英語も聞けるし、外国人も増えたから、英語を話せるチャンスも増えているはず。

 日本人は、英語の勉強というと「暗記ばかりでつらい」と思うらしいけど、楽しみながら英語を覚えてほしい。僕は今も毎日、日本語を勉強しているけど、漢字を覚えるときは、繰り返し書く方法じゃなく、部首ごとの意味を考えて覚える。これだと楽しいし面白いから飽きない。ネタも作れるしね。

厚切りジェイソン
米国出身。テレビなどで活躍する傍ら、ITベンチャーのテラスカイで米国事業などを担当。コンピューターサイエンス修士号。
(写真=興村 憲彦 スタイリスト=松川 茜 ヘアメイク=榊 美奈子)

 「どうして日本のビジネスパーソンは皆、TOEICで高いスコアを取ることばかり目指すんですか?Why!」

 コメディアンでITベンチャーの経営にも携わる「厚切りジェイソン」ことジェイソン・ダニエルソンさんは、そう言って首をかしげる。2005年に旭化成のインターンシップとして1年間、独学で日本語を習得したジェイソンさんは、英語を話したいと言いながらTOEICの点数アップに取り組む日本人の英語学習法に疑問を隠さない。

 下のグラフを見てほしい。TOEICのスコアと英会話の能力を示すVersantという試験の相関関係を示した図だ。TOEICの得点が示すのは、リスニングとリーディングのテストの結果。TOEICが高得点でも、会話が苦手な人が多いことが分かる。

 英語を使って仕事をする現場では、TOEICは高得点でも英語を仕事に生かせない人が多いことは、半ば“常識”。英語教育を手掛けるトライオン(東京都港区)の三木雄信社長は、「まずはTOEIC至上主義から脱却することが、使える英語を身に付ける近道ではないか」と話す。

 では、どうすればよいか。グローバル化する職場を生き抜く英語術を探る。

TOEICスコアが高くても、聞く・話す力が弱い人が多い
●VersantとTOEICスコアの相関関係
出所:トライオン
1 TOEICのスコアは600点以上はいらない

 「TOEIC900点でも英語を話すのが不安という人はざらにいる。一方、TOEIC500点でも臆せず外国人に溶け込める人もいる」

 そう語るのは、企業から海外での人材研修などを請け負うスパイスアップ・ジャパン(東京都千代田区)の豊田圭一社長だ。同社は、PART1で見たJR東日本の海外での“修羅場研修”などを手掛けている。何が、ビジネスパーソンの英語に対する意識を分けるのか。一言で言えば、「心理的な壁」だ。

 日本人の英語体験は、多くが「うまく話せなかった」という失敗の経験から入る場合が多い。その悔しさをバネに英語学習にまい進できる人もいるが、心理的な壁が立ちはだかり、実際に「話す」ことにためらう人も少なくない。「『やってみたらうまくいった』という成功体験から入るように、学習の仕方を変えないといけない」(豊田氏)

 見知らぬ海外の土地で、「現地の経営者に昼食をごちそうになる」といったミッションを克服させ、「成功体験」を植え付ける修羅場研修が企業から注目を集めるのは、そのためだ。

 とはいえ、全く英語ができなければ、外国人とのコミュニケーションの第一歩すら踏み出せない。最低限必要な水準とはどの程度なのか。

 英語学習の著作も多く、日本企業に対し英語活用のアドバイスもするスティーブ・ソレイシィ氏は、「まずTOEICは600点もあれば十分」と指摘する。TOEIC600点は、英語力が“初級”を脱し、履歴書に書ける最低水準ともいわれるスコアだ。

 ただし、それは「聞く」「読む」という従来型のTOEICでの点数でのこと。ソレイシィ氏は、「これからは『話す』『書く』を重視し、4技能でテストを受けるべきだ」と指摘する。ビジネスパーソンが英語を話せないのは、日本企業が長年、「聞く」「読む」というテストを重視してきたからでもある。最近では「話す」「書く」という発信型の能力を重視する企業も増えた。本当に使える英語力を測る指標として、4技能テストの活用も重要になりそうだ。

 ただし注意も必要だ。TOEICなどの検定テストで高得点を取ることを昇進などの条件に定めることは、逆効果になる可能性がある。

 経営学と大脳生理学を融合させ、職場における意思決定などを研究しているオーストラリア・モナッシュ大学マレーシア校の渡部幹准教授は、「高得点なのに話せない自分を見せたくないという心理が働き、組織全体が停滞するリスクがある。最低ラインだけを示すべき」とアドバイスする。安易な点数主義に陥らないようにしたい。