非上場では日本最大級の企業であるサントリーの創業家が将来を思案している。同社や他の非上場企業の模索から、安定した事業継承のための5つの作法を学ぶ。

 「大切なのはみんなで集まること。やらんといけんなと、相談して始めたんです」。サントリーホールディングス(HD)のオーナー一族の10人以上が集まる「勉強会」が昨年から定期的に開かれるようになった。副会長である鳥井信吾(63歳)は、将来を案じる。「ファミリーがこれからどのようにものを考えていくか。ほったらかしにしとったら、わけ分からんくなります」。

サントリーホールディングス創業家の3人
鳥井信宏副社長
とりい・のぶひろ 創業者・鳥井信治郎氏の長男の家系で、ひ孫に当たる。2011年サントリー食品インターナショナル社長、2016年から現職。50歳。(写真=的野 弘路)
佐治信忠会長
さじ・のぶただ 創業者次男の佐治敬三氏の子。2001年に4代目社長となり、2014年に創業家でない新浪剛史氏に社長を譲り、会長に専念。70歳。(写真=古立 康三)
鳥井信吾副会長
とりい・しんご 創業者三男の鳥井道夫氏の子。2003年サントリー副社長、生産・研究部門を統括、3代目マスターブレンダー。2014年から現職。63歳。(写真=菅野 勝男)

 信吾はサントリーの3代目「マスターブレンダー」でもある。勉強会では信吾が若い世代に対して、ウイスキー造りへの思いを話すこともある一方で、会社法や企業財務もテーマになる。一族として会社との関わり方を改めて考えていこうという思いからだ。丁稚奉公から身を起こした鳥井信治郎が大阪市に「鳥井商店」を開いてから約120年、今や日本を代表する創業一族となった。だが世代交代が進む中、サントリーは、かつてない転機を迎えているのだ。

 同社はこれまで鳥井信治郎の3人の息子と、それぞれの子息が共同で経営を担ってきた。2014年には佐治信忠(70歳)が、社長の座を初めて社外の新浪剛史(57歳)に譲ったが、一族経営の基本は変わらない。

 今年、副社長となった鳥井信宏(50歳)は、信治郎の長男の家系で、ひ孫に当たる。「プリンス」と呼ばれ、次期社長への昇格が確実視されている。

 一方、会長の佐治信忠は次男の家系であり、子供がいない。副会長の信吾は三男の家系で信忠のいとこに当たる。子供はいるものの、サントリーに入社していない。このため、長年の安定した成長を支えた、3兄弟の家系による共同経営は従来のようには続きそうにない。こんな危機感が、勉強会が始まった背景にあるようだ。

 「一族が集まることが大事」。当たり前のような言葉には、創業者の強い思いが込められている。産業界を見渡せば、本家と分家、兄弟や親子など親族の争いで、経営が危うくなった企業はいくらでもある。日本有数の同族企業、サントリーで激しい内紛が起きなかったのはなぜか。信治郎の孫たちには、忘れられない原体験がある。