創業家の行動により、会社が大きく混乱する事態が相次ぐ。出光、ベネッセ、大戸屋の事例から、問題の真因を探る。

 福岡県宗像市にある宗像大社は出光興産の創業家である出光家にとって聖地である。北九州市で会社を興した創業者の出光佐三は1962年、この大社で献茶祭を執り行った。以来、創業家にとって欠かせない行事となっている。

 表千家の家元など茶道の重鎮が勢ぞろいし、神前に茶を供えるこの催しは、神社の祭典というより出光家の奉納行事だ。会場の周囲には出光の総務系社員や出光美術館のスタッフが並び、控え室には美術館から持ち出された重要文化財クラスの美術品が展示される。

出光興産
創業家5代目社長
出光昭介名誉会長
(写真=出光氏:共同通信、背景:竹井 俊晴)
出光興産 月岡 隆社長
(写真=月岡氏:的野 弘路、背景:竹井 俊晴)

 10月17日。この宗像大社に出光興産5代目社長で、佐三の長男である出光昭介(89歳)の姿があった。その4日前に出光社長の月岡隆は昭和シェル石油との統合延期を発表。しかし昭介を頂点とする創業家一族は、何もなかったかのように、宗像山を背にした荘厳な境内で、例年通り献茶祭を始めた。

 宗像大社は、出光の社員にとっても欠くことのできない神聖な場所だ。年明けには本社役員や販売店の一行が参拝。これから課長になる世代は長期の研修を受けるのが出光の習わしだが、最後は宗像大社で佐三の精神を学び、「出光人」として日本にどう貢献するのかを考え抜く。

 出光と昭シェルの経営統合の雲行きが怪しくなったのは今年6月のことだった。出光の株主総会で、創業家側が合併反対を表明。発行済み株式の3分の1以上を保有することを盾に、月岡ら経営陣の行く手を阻んでいる。

 同じ宗像大社で佐三に思いをはせる創業家と、佐三の精神を学んだ経営陣は以来、ともに「佐三の精神」を持ち出し、それぞれの主張を正当化しようとしている。

 昭介は「(統合は)木に竹を接ぐようなもの」と指摘する。佐三の精神として知られるのが「大家族主義」。今も本体には労働組合がなく、定年制もない。外資系の昭シェルとは社風が違うというわけだ。一方の月岡は、「佐三氏なら賛同してくれるはずだ」「皆で歯を食いしばって困難を乗り越えることこそ、創業家が残した最大の精神」と力説する。