プロジェクトが失敗する事情は様々だが、本質的な原因はどれも似通っている。先人の失敗を繰り返さないようにするには、どうすればいいか。専門家の答えは。

<span class="fontBold">多くのヒット映画を生み出しているオフィス北野の森昌行社長</span>(写真=北山 宏一)
多くのヒット映画を生み出しているオフィス北野の森昌行社長(写真=北山 宏一)

 「いくら世界のキタノともてはやされても、興行成績が振るわなければ監督生命が絶たれてしまう。リクープメント(費用回収)は最低限の条件だ」。穏やかな表情で語るのは、オフィス北野の森昌行社長。だが次の言葉を発した瞬間、眼光が一気に厳しくなった。

 「私にとって映画はギャンブルではない。成功を義務付けられたビジネスなんだ」

 北野武監督の同志として、18作の映画をプロデュースしてきた森社長。自由奔放な北野氏を巧みに操りつつ、現場に渦巻く複雑な利害を調整して、多くの名作を生み出したプロジェクト管理の達人だ。最新作の「アウトレイジ 最終章」は公開4週間で観客動員が100万人を突破する大ヒット。ファンの間では、シリーズの完結を残念がる声が高まっている。

 そんな森社長の誇りは「北野作品では1度たりともスケジュールをオーバーしたことがない」ことだ。多忙な北野氏は隔週でテレビと映画の仕事をこなしており、撮影は一発勝負。時間の余裕はほとんどない。天候などの影響を最小限にできるよう、膨大な機材やスタッフを手配して、代替案や予備日など複数の計画を用意する必要がある。大人数が移動するため、ロケ地も交通機関の混み具合などを予想して決める。

 狙いははっきりしている。撮影の遅れはコスト超過につながるからだ。「予算オーバーは出資者に対する契約違反。“北野組”では曖昧なカネの使い方は許されない」(森社長)。工程順守は宣伝戦略の高度化にも一役買う。「早い段階で作品のマイナス要素を徹底的にあぶり出すことで、それを薄める理論武装ができ、キャッチコピーにも活用できる」と森社長は話す。

 浮き沈みの激しい映画業界で、北野氏が第一線を走り続けられる理由はここにある。

 「どれだけ優れた才能を持っていても、リクープメントできなければ次の作品を撮らせてもらえない。消極的に聞こえるかもしれないが、継続こそがヒット作を作る大前提だ」と森社長は力を込める。

 失敗したら次はない──。

 プロジェクトに関わる人なら誰もがそう考えるはずだ。納期厳守が求められるのは映画も航空機も変わらない。売り上げが立たずに困るのは、オフィス北野も三菱重工業も同じだ。ならばなぜ、北野組は18作連続で納期を守り、MRJは初号機で既に5回の延期に追い込まれたのか。

 答えは単純だ。リスクに対する向き合い方が、全く異なっていたからだ。

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