各社が推し進める大量集中出店に、深刻になる人手不足、人件費の上昇……。現場で加盟店オーナーたちが悲鳴を上げ、ビジネスモデルがきしんでいる。

決して眠らないはずのコンビニエンスストアが、眠っていた。
10月上旬のある日、時刻は午前1時20分。京都市内にあるファミリーマートの外窓にはロール式のカーテンが下ろされ、辺りは静けさに包まれていた。付近を通りかかる人はゼロ。時折、猛スピードで走り抜けていく乗用車がいるのを除けば、辺りは秋の虫の鳴く声しか聞こえない。
静寂が訪れたのは、時計の針を約20分戻した午前1時。このファミマが、通常のコンビニではあり得ない「閉店時間」を迎えたからだった。
0時50分ごろまでは学生とみられる男女6人が店外の椅子に居座り、スマートフォン片手に笑い合っていた。だが店員がカーテンを下ろし始めると、誰に言われるでもなく退散。1時になると看板の明かりが消え、続いて駐車場の入り口がコーンでふさがれた。
店員2人が、店舗裏へとゴミ袋を運んでいる。その彼らも1時15分にはバイクに乗り、帰宅の途についた。
きしみ始める「運命共同体」
同店が閉店するようになったのは今年7月。オープン当初から当たり前のように24時間営業を続けてきたが、ここ数年で人手不足が深刻になった。人件費も上昇し、来店客の少ない深夜まで営業する余裕がなくなった。6月末、同店はFC(フランチャイズチェーン)契約を結ぶファミマ本部と営業時間の変更について合意。午前6時から翌日午前1時の19時間営業に移行した。
24時間営業の縮小を探る動きは、ファミリーレストランなど他の業界にもある。だがコンビニ業界においては、それらと比べ物にならない重い意味を持つ。24時間営業はコンビニの象徴というだけでなく、FC加盟店と本部が「運命共同体」として事業を運営するという、ビジネスモデルの根幹にもふれる問題だからだ。
大手チェーンは1980年代以降、「24時間営業の掟」をかたくなに守ってきた。それが破られたことは、加盟店の苦境を象徴する。そしてその苦境がいま、加盟店と本部の関係をきしませている。
本部の出店競争、加盟店の苦悩深く
日本フランチャイズチェーン協会によると、国内で営業するコンビニは2016年度に5万7818店と、過去20年で2倍近くに増えた。特に東日本大震災でライフラインとしての機能が注目された11年以降は、各社とも出店攻勢を加速させた。だがチェーン全体としては栄華を誇るコンビニも、個々の加盟店をみれば稼ぐ力は衰えている。
会社員としてシステム関連の仕事をしていた男性がセブンイレブンの加盟店オーナーになったのは、もう10年以上も前のこと。勤務先の工場がリストラで売却されたのがきっかけだった。
開業当初、近くにあったコンビニは「サークルK」くらい。立ち読みコーナーに居座る中学生や駐車場で飲み食いする高校生に困ったこともある。だが「少年たちの指導も仕事のうち」。男性は自分にそう言い聞かせ、同時に地域の一員として商売していることを誇らしくも思いながら、地道に店舗経営を続けてきた。
「脱サラ」にあたってはそれなりに夢も抱いたが、大もうけできたわけではない。日販65万円はセブンイレブンとしては平均的な水準。オーナーとしての年収も約600万円と、同世代で突出するわけではない。「それでも娘を大学に入れ、社会に送り出すことはできた」
風向きが変わったのは5年ほど前だ。まず、近くにローソンが開業した。2年前にはセブンイレブンがオープンし、その後もう1軒、また別のセブンイレブンができた。両店とも同じ看板を掲げて同じ商品を販売しているが、運営するのは別のオーナー。「仲間が増えた」というより「身内の殴り合いが始まった」というような感覚だ。いずれもクルマで数分という近場で開業したため、自店の売り上げはみるみるうちに減っていった。そこに人件費の上昇が重なり、男性の年収は300万~400万円まで落ち込んだ。15年契約の満了を待たず、年末までに店を閉める。
ドミナントの思惑にずれ
コンビニ各社の出店は商圏が重なることが多いので、素人目には効率が悪いように映る。それでも各社が同一エリアに集中出店するのは、競合チェーンの進出を未然に防ぎ、地域の消費ニーズを総取りする狙いがあるからだ。このような出店戦略を、業界では「ドミナント(支配的)出店」と呼ぶ。地域に店が集中することで配送効率が高まる利点もある。
ただしドミナントが効果を発揮するというのは、本部の視点の考え方だ。本部は看板や経営ノウハウを提供する代わりに、粗利の一定割合をロイヤルティー(経営指導料)として加盟店から徴収する。見逃せないポイントは、加盟店がたとえ赤字であっても、商品が1つでも売れれば本部はその分のロイヤルティーを受け取れる仕組みになっているということだ(下の囲み記事参照)。
一方で加盟店にとっては、自店の近くに新店ができれば、それが自分と同じチェーンの店であろうとも、売り上げは減少し、オーナーの収入に直接影響することになる。
このように、本部と加盟店の間にはドミナント戦略をめぐって思惑のズレが生じる。東京23区で複数のローソン店舗を経営する加盟店オーナーは冷ややかに語る。「最近、また本部から『近所に新店を開くのでオーナーになってくれないか』と迫られた。オーナーを確保しないまま見切り発車せざるを得ないほど、出店競争は過熱している」
人件費の急騰、本部には影響なし
コンビニには、スーパーや百貨店など他の小売業とは決定的に違う特徴がある。売り場を担うのが「株式会社セブン-イレブン・ジャパン」や「株式会社ファミリーマート」といった大企業ではなく、本部とFC契約を結んでチェーンに加盟する独立事業主である点だ。一般的に前者は「本部」、後者は「加盟店」と呼ばれる。
本部の最大の役割は、加盟店の経営指導にある。チェーン展開するなかで蓄積してきたノウハウをオーナーに伝えたり、売り上げの増大につながる魅力的な商品を開発したりしている。その指導を受けて売り場の日々の業務を担うのが加盟店。商品の仕入れに接客、従業員の採用・教育から店舗の採算管理まで領域は幅広い。
大手コンビニ店舗の97%超はFCオーナーが営業している。誰もが知る看板や商号を借りているとはいえ、加盟店の多くが地域の酒屋からの転換や、脱サラした零細事業主だ。加盟店が本部に支払うロイヤルティーは、粗利をベースに計算している。その割合は開業時の条件や売上高によって異なるが、おおむね粗利の3~6割程度を本部が徴収しているイメージだ。
注目すべきは、現場における人件費の膨張が、本部の稼ぎに直接影響しないこと。もちろん加盟店が立ち行かなくなれば本部にもマイナスになるため、光熱費の補助など各種支援制度を用意してはいる。セブン-イレブン・ジャパンは2017年9月、ロイヤルティーを引き下げた。だが都道府県ごとに定められている最低賃金が上がり続けており、負担軽減には限界がある。
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