真のグローバル企業に向け新たな成長段階に入った日本電産。永守社長は自らの経営理念をどう伝え、いつ次世代にバトンを渡そうと考えているのか。 グローバル化から働き方改革、後継者、そして自身の健康リスクまで、本音を語りつくした。

(聞き手は 田村 賢司、池松 由香)

(写真=山田 哲也)
PROFILE
[ながもり・しげのぶ]1944年8月京都府生まれ。職業訓練大学校を卒業後、ティアック勤務などを経て73年に日本電産を創業。本誌が2014年に実施した「社長が選ぶベスト社長」調査で1位に選出。ソフトバンクグループの社外取締役を務める。72歳。

海外で精神論はだめ。
時間かけて理詰めで教え、理解できる人だけが残る。

 問 買収した海外企業が“永守イズム”に感銘を受け、会社のあり方やビジネスを変革し始めています。海外でどのようなことを伝えているのでしょうか。

 答 非常にシンプルで、将来の夢を語るんですわ。まず利益を出して、それを投資に回して会社を大きくしましょう。そうすれば、あなた方の年俸も増えるし、人も採用できるよと。

 例えば2015年に買収したGPMは、ドイツの田舎町で約80年やってきた。『世界に出ていこう』という話をしたら、びっくりしていたんですね。『フランクフルトに行くだけでも何時間もかかるのに』と。

 そこで僕は『だったらジェット機を買えばいい』と言った。現に裸一貫で会社を立ち上げた私が、今日は自家用ジェットでフランクフルトから30分で飛んできた。要はもうければいいんですよと。そう言うと目の色が変わってくる。

 営業利益率10%を出せば、ヘリコプターを買ってもいいし、新事業に出ていってもいい。機械や人が足りないなら金は出す。技術が足りなかったらそれを持つ会社を買えばいい。全部任せるから、『〇〇が足らない』とは絶対に言うなとね。

 問 社員の気持ちに火をつけようとするところは、これまで日本で言ってきたこととほとんど変わらないように見えます。

 答 彼らには自信がなかったんですよ。今年8月に買った米エマソン・エレクトリックの産業用モーターの部門は、それまで本社にいろいろ提案しても、全部却下されていた。それなのに、分厚い報告書は要求される。

 うちなんか報告書は紙1枚。売り上げと利益がなんぼ上がったかだけでOKで、あとは任せる。結果さえ出せば幹部や部下の給料は増えるし、新しい本社も建てることができる。実際に、国内で買収した会社はほとんど、新社屋を建てているからね。

 海外でこうしたことを話すと、その会社の経営陣や、労働組合が、前に我々が買収した会社に聞きに行くんですわ。それで『確かにボーナスが増えた』とか、『新しく寮を造った』などと聞いて、驚くわけですな。

 問 それでトップや社員たちのマインドセット(心構え)が変わっていくと。

 答 いや、すぐには変わらんよ。『千回言行』と呼ぶんだけど、要は1000回言う。飽き飽きして辞めていく連中もいれば、理解してくれる人もいる。

 トップに必要なのは『泣かない』『言い訳しない』『他責にしない』。米国との会議でそれを話したら、ある幹部が翌日には英訳したものを幹部の机に張っておったね。『千切り経営』や『井戸掘り経営』とかも見事に翻訳してね。これには驚いたな。

 3大経営手法や『3Q6S』『3新』も、それをやれば結果が出るから信用してくれる。日本では暗記するまで覚えろと言っていたほど。でも海外で精神論はだめや。データを使って理詰めで教えないと。だから理解してもらえるまでに3~5年ぐらいかかるし、理解できた人だけが高い利益率を達成できる。反対に、理解できない人は自分から辞めていくけど、それを嘆いてはいかんわな。

 問 グローバル化と並行して、「車載」や「家電・商業・産業用」のような新たな事業を創造しています。

 答 2兆円、10兆円に向けて石垣を積んでいる段階で、まだまだ足らんところもいっぱいありますな。例えば今年、(米電機大手の)エマソンから2度目の事業買収をした。再生エネルギー向け発電機が狙いの一つ。蓄電機構は既に持ってたんですが、発電機はよそから買っていた。

(写真=山田 哲也)

 EMS(エネルギー・マネジメント・システム)は、風力発電でも太陽光でも、ぽんと置けば電気がつけられる。それをさらに強化するために発電機の会社を買ったわけです。

 ドイツやイタリアが原子力発電をギブアップしたので、代替エネルギー需要は必ず大きくなるはず。必要な技術を全て一度には買えんから、まず蓄電装置を押さえて、次に発電機と順番に行ったと。

 そうやって周りを埋めると真ん中に湖ができる。その水をさらえば何倍もの価値がある土地に変わる。世の中の流れを見て常に先回りするんやね。

 問 以前は自ら先頭に立って買収した企業を立て直していました。最近では米国のように自律的に動く組織も生まれてきています。何が変わったのでしょうか。

 答 今では海外からM&Aの案件が出てくるようになった。前と違って、人を信頼して任せるというのが増えてきました。もちろん経営の基本はぴしっと教えるけど、彼らにやってもらう。

 確かに昔は何でも自分でやった。それは、成功事例がなくて、誰も信用してくれなかったからね。今は成功事例があるから、『ミスターナガモリの言うことをどんどんやればいい』と、やっと信用されるようになった。何でも自分でやる必要がなくなったわけですな。

 問 「2030年度に売上高10兆円」という目標は実現可能でしょうか。

 答 今はまだ『大ボラ』やな。でも、大きな目標は、『大ボラ』から始まって『中ボラ』『小ボラ』にして『夢』にするのが僕のやり方。夢とは、自分の中では実現可能性がかなり高い段階や。10兆円もそれと同じ。いずれは実現するつもりです。

 問 なぜそれほどまでに急激な成長を目指すのでしょう。

 答 成長が速すぎるということはなくて、待ち伏せをしているんです。織田信長の桶狭間の戦いやね。2000の兵で2万の敵を倒したのは、準備をしっかりしたから。後発メーカーは待ち伏せじゃないと勝てない。

 創業者が引退したら成長のスピードは必ず遅くなる。だから行けるところまで行くと。今、時価総額が2兆8000億円ぐらいで、それが10兆円とか20兆円になったら、少なくとも日本の電機業界では完全にトップ。売り上げが10兆円になれば、時価総額は20兆円になるんですよ。トヨタ自動車みたいに時価総額20兆円規模まで行けば、簡単には揺るがんわね。