買収企業が次の買収をリード

3大精神に引かれたというNMCのケイ・パンCEO。オフィスに永守社長直筆のメッセージ(上)を掲げる

 「この会社はぜひ欲しかった。あの技術が手に入れば、顧客のニーズにさらに応えることができる」

 NMCのケイ・パンCEOは力を込めてこう語る。NMCは2010年に日本電産が買収した米電機大手エマソン・エレクトリックのモーター事業が前身。日本電産が進めるグローバル化は、買収した海外企業が次の買収先を自ら選び、さらに事業を強くするステージに入ったのだ。

 KBが持っているのは、モーターの回転速度やトルクを制御する技術。それを自社のモーターと組み合わせることで、顧客のニーズが高まっている省エネルギー型の機構製品を作り出せる。パンCEOはそう考えた。

 日本電産はKBを買収した直後の9月には、イタリアのE・M・G・エレトロメカニカを20億円で買収した。こちらも買収前の売上高は約14億円(2014年12月期)と規模は小さかったが、高品質・高効率モーターの欧州規格であるIECに適合する製品を持っており、欧州に販路を拡大しやすくなる利点があった。

 そして今年8月には、NMCの古巣、エマソンの別の事業部門であるモータードライブ事業と発電機事業を約1225億円で買収すると発表した。これは、日本電産のこれまでのM&Aの中でも最高額となった。

 エマソンの両事業の売上高は約1674億円(2015年9月期)。狙いは同社がフランスや英国の拠点を中心に持つネットワークだ。低中圧の発電機やIEC規格の低圧モーターで、欧州やアジアの販路を獲得できるのが大きな魅力だった。

 これも、社内で手薄だった販路や技術を補うためにNMCが主導で動かした案件。パンCEOは「顧客のグローバル企業は世界中どこでも幅広い製品の供給を求めている。一連のM&Aで我々のグローバル体制ができてきた」と胸を張る。

 日本電産に起きつつある新たな変化はこれだけではない。NMCは、日本電産の家電・商業・産業用モーター事業全体をまとめたACIM(Appliance、Commercial、Industrial Motor)事業の司令塔として機能し始めている。M&Aを提案するだけでなく、「部門本社」として事業拡大の戦略を自ら立案し、動かしているのだ。

 パンCEOは言う。「シェアを取り、スリーニュー(3新)で新たな分野に出て、M&Aで技術と販路を獲得する。永守社長が日本電産でやってきた成功パターンを使えば、必ず成長できる」。

 NMCは自らM&Aを提案するのに先立ち、ACIM事業の組織再編に着手していた。2013年10月にNMCのトップとなったパンCEOはACIMの事業を「家電用モーター関連」「商業・産業用モーター、制御」「産業ソリューション」「エレベーター、ドライブシステム」の4分野に再編した。

 成長市場に焦点を合わせ、旧エマソンのモーター事業を分割してこれらの4部門に編入。旧アブトロン・インダストリアル・オートメーション(米国)、アンサルド・システム・インダストリー(イタリア)など日本電産グループの他社もこの4部門に関連付けて目標を共有した。その上でKBなどを買収し、4部門の強化に動いていった。

 海外のグループ企業へ日本電産本社から派遣される社員は、ほとんどの場合で1社当たり2~3人程度。1人のところも珍しくない。NMCの事業再編も、パンCEOはじめ現地企業の幹部が主体となって動いている。

 海外に一部の事業の本社機能を置く日本企業はここ数年増えている。日立製作所は2014年、鉄道事業の本社機能をロンドンに移した。テルモも2011年頃から血管や血液システム事業の本社機能の一部を米英に置き始めている。

 その多くは買収した企業のある国に事業の機能を移しただけで、現地がグループ全体の事業再編に乗り出すようなケースはまずない。

 だが、海外企業に任せるだけでは、高成長・高利益率は達成できない。日本電産は、自律して動き始めた海外企業を、日本の本社を含む「世界一体」で動かす仕組みを作っているのだ。